「じゃあ始めましょうか、遺言公開を」
声を上げた男は、ニヤリと笑い、一番前に立っている中年に声をかける。
「お願いします」
「はい、えーと麗仙神社30代目宮司様の遺言によりますとー」
男の話すことを雪は黙って聞いている。
「第31代目麗仙神社巫女は、迦ノ峰雪とする」
雪は少し口の端を持ち上げて『お兄様』のことを見る。
「雪は麗仙家の養子とし、苗字を変えること」
「また、使い妖は、赤喪家長女、赤喪凛を連れていくこと」
などなど、いろいろなことを話していたが、半分は覚えていない。
「これで終わりとさせていただきます」
やっと終わったと思ったのも束の間、声を上げたものが一人。
「どうしてだ!どうして俺が宮司じゃないんだ!俺が後継だって約束したんだ!」
「刻紀さま!落ち着いてください!」
例の『お兄様』だ、刻紀と言うのか。
「ふんっ、情けないわね。この期に及んで喚くなんて。潔く認めれば?」
雪が鼻を鳴らす。
「雪!お前なんかに務まるわけないだろ!一番弱いくせに、、、」
「、、、何ですって?」
「雑魚には務まらねえって言ったんだよ」
雪の額に青筋が浮かんでいる。
「てめえ!もう一回行ってみろ!」
「雪!やめとけよ!」
とめに入るが、あまり効果はなさそうだ。
「負け犬の遠吠えね、雑魚はどっちか分かってないわけ?」
「お前だろ、役立たず」
ぎろりと睨みつけながら腰を下ろす雪と、負けじと睨み返す刻紀。
「あはははは、、、」
間に挟まっているおれは限界だ。
「ふんっまあいいわ。終わったんならさっさと帰りましょ」
「え?ああ、、、」
こんなに短いんだな、と思ったが、使い妖(?)の赤喪凛はいいのか?
「ちょ、ちょっと!待ってくださいよぉ!」
後ろから声をかけてきたのは、ふわりとした赤髪の少女、赤喪凛だ。夢に出てきたとおり、犬の耳が生えている。
「ついてきなさい」
声の主が誰だか分かっているのか、振り返らずに凛に声をかける。
スパンと大きな音を立てて襖を閉め、建物の奥へ向かう雪と、キョロキョロしながらも、ついてくる凛。
「、、、どこへ向かってるんだ?」
「部屋よ、今日は一晩泊まるわよ」
雪が立ち止まったのは、少し狭い小部屋。
「雲竜がここで、凛は隣。私は分家だから向こうのほう」
「、、、狭くないですか?」
凛が声をかける
「文句は本家に言ってよね。じゃ」
建物の奥に消えてしまう雪。ため息をつきながら、凛は部屋に入ってしまうので、俺も扉を開ける。
「確かに狭いな」
布団が敷いてあり、小さな扇風機が一つ。部屋はそれだけでいっぱいで、ほかに何か置けそうにない。
そんなことを考えてると、扉が叩かれた。
「はい」
「すみません、今ちょっといいですか?」
赤喪凛が顔を覗かせている。
「ああ、どうした?」
「失礼します、あの、あんまりじゅうようじゃないんですけど、、、」
「いや、構わないぞ、どうした」
「あの、、、人間ですよね。麗仙の白巫女とどうやって知り合ったんですか?てか、ここのこと知ってるんですか?」
「あー、俺雲竜ついてて、あいつが祓ってくれるらしくて、、、まあそれで色々あってここまで、、、ここのことってなんだ?」
色々違う気がするが、まあいいか。
「知らないんですね、、、私は何度かここにきているんですけど、家族関係がなかなかに悪くて、、、まあ、あんなことがあれば当然かもしれないですけど」
「あんなこと?」
「雪さまは昔、大怪我をしたんです」
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