前回のお話で桃くんと赤くんが同級だったけど、桃くんは3年です!
白視点!
白×黒
高校って、たいがい似たような毎日が続く場所やけど、
ときどき、ちょっとだけ違う空気が流れる日がある。
今日が、そんな日になるとは思てへんかった。
「――初兎、プリント、落ちてんで」
「あ、うわっ、すんませんっ!悠くん!」
机から滑り落ちたプリントを拾ってくれたのは、3年の悠くん。
僕の一学年上で、顔がちょっとこわいけど、話すとやさしい。体育委員で、しっかりしてて、みんなに頼られてる。
なんでかよう知らんけど、僕と悠くんは、たまに一緒におる。
同じ委員会でもクラスでもない。
けど、廊下ですれ違ったり、購買でバッタリ会ったり。
ほんで気ぃついたら、並んで自販機の前で飲み物飲んでたりする。
「ほら。ちゃんとしぃや」
「……ありがとうございます」
「今日は放課後、ちょっとだけ付き合ってくれへんか」
「へ? な、なんでっすか」
急に差し込まれた“ちょっとだけ”のお願い。
何の用事かもわからんのに、僕は条件反射みたいに頷いてしもた。
「おもろいとこ、連れてったるわ」
放課後、部活の集まりが終わったあと。
悠くんに連れられて向かったのは、校舎裏の、めったに人の来ぃひん非常階段の上。
「ここ、屋上行く途中にある踊り場やねんけどな。意外とええ感じやで」
「……めっちゃ静かやな……ここ」
空は、すこし橙色に染まりかけてる。
窓から風が入って、紙がぱらぱらめくれる音しかせぇへん。
「たまにここで寝転ぶねん」
「え、寝んのここで!?」
「ふっふ、バレへんように静かにやで? サボってるわけやない、これは“休憩”や」
悠くんはそう言って、階段の一番広い段に腰を下ろした。
僕も、隣にちょこんと座ってみる。
「……めっちゃ落ち着くな、ここ」
「せやろ? 校舎の中やのに、ちょっとだけ時間止まってる感じするやろ」
僕らはしばらく、何を話すでもなく座ってた。
外から吹く風の音と、かすかに聞こえる吹奏楽部の音が遠くて。
不思議と、胸の奥がふわっと軽くなった。
「なあ、初兎」
「ん?」
「お前、来年……どうするん」
「ど、どうって……進路の話っすか?」
「まあ、それもあるけど。それより、“この学校でどう過ごすか”やな」
「……うわぁ、それ、悠くんっぽい」
「俺っぽい?」
「うん。なんか、考えることが“未来”寄りっていうか。僕はまだ明日の提出物のことしか考えられてへん」
「それも生きるってことやで」
悠くんはふっと笑った。
夕陽が当たって、睫毛の影がくっきり落ちてた。
「俺も、最初は何も考えてへんかった。ただ授業出て、飯食って、寝て、の繰り返し。けど、誰かとちょっと話したり、場所変えたりするだけで、意外と“おもろい日”ってできるやん」
「……うん。わかる気します」
「せやから、たまにはこうして、意味ない時間作るんもええと思うで」
意味ない時間。
でも、それって、あとで思い出したら一番覚えてる気がする。
「悠くん、来年卒業したらもう会えへんかもっすよね」
「たぶんな。でもまあ、今こうして話してるやろ」
「……なんか寂しいなあ」
「寂しくなってええよ。そんだけ、今がちょっとだけ特別ってことやし」
「……それ、また悠くんっぽいな」
いつもより長く笑った悠くんを見て、僕は思った。
こういう先輩がいるって、ちょっと得やなって。
「……また、ここ来てもええっすか」
「来い来い。お前用の段、あけといたる」
「段、僕用なんすか」
「そうや。初兎専用スペースや。誰にも言うたらあかんで?」
「わっ、僕、急に特別待遇!?」
「せや。ちゃんと今日“付き合ってくれた”からな」
笑いながら、悠くんはペットボトルのキャップを開けた。
そして何気なく僕の肩をどん、と叩いてきた。
その手の重みが、ちょっとだけあったかかった。
帰り道。階段を下りる途中、悠くんがぽつりと言った。
「たぶん、初兎は来年もおもろい日いっぱい作れると思うで。お前は真面目でアホやから」
「……褒められてるんか貶されてるんかわからんわ」
「どっちもや。安心せぇ」
いつかこの階段も、僕ひとりで登るようになる。
けど、そのとき思い出すんやろう。
今日の放課後――ちょっとだけ、特別やった時間を。
コメント
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うわぁぁああああぁぁあぁ!!! 仲良ッッ!!!!
おー!明日までに完成させよ......w