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ある日の事だった。
それは、何の変哲も無い平凡な1日。
一見退屈で惰性な日々に見えるも、誰もが望む平和な1日。
「はぁ…やっぱり君と居ると、退屈しないね」
「あはは、嬉しいな」
「いや、褒めてないから」
今となっては、あの平穏が懐かしく思える。
罪人としての業を背負った僕には、これが性に合ってるのか…。
とにかく、この日は何もかもが初体験だった。
他人の真似事をするのも、見慣れない自分の顔を見続けるのも。…そして、誰かと中身が入れ替わるのも。
「それで?用事ってなんだい?」
この日、放浪者はナヒーダからの呼び出しでスラサタンナ聖処へ訪れていた。
「まぁ、そう急がないでちょうだい。最近の調子はどうかしら?息災かしら」
「…急になんだい?僕の親でもあるまい」
「あら?貴方さえ良ければ、わたくしは貴方を実の親族のように接しても良いのよ?」
「御託はいい、急に呼び出したのにもワケがあるんだろう?」
「えぇ、そうよ。最近読んだ礼儀作法の本には、人と会った際や頼み事をする際は、何か軽い世間話をするのが良いとあったのだけれど。貴方には必要ないのかしら?笠っち」
「影響受けすぎじゃないかい」
「それもそうね。」
このようにナヒーダが放浪者を人が来ないような場所に呼び出すのは、草神と因論派の一学者が一対一で軽口を言い合っていると、周りの学者達が(クラクサナリデビは因論派に肩入れしているのでは無いか?)と、雑念を抱かれる可能性を考慮してのと、人前でするような頼み事でも無いというのが主な理由だった。
「実は、最近また世界樹の様子がおかしいの。具体的に何が悪い、如何なっている、というわけではないのだけれど…世界樹はスメールにとっても、そしてテイワットにとっても、とても重要な存在だから…確認して来てはくれないかしら?」
「良いだろう。以前の様にするだけだろ」
ナヒーダは草神であり、世界樹を管理する者であるが故に世界樹と最も密接な関係であるとも言える。しかしナヒーダ自身が世界樹内に這入るよりも、第三者が確認してその状態をさらに確認、と言った形が現状では最適だった。
何より、放浪者は一度神の心を手にしている為、よって神の権能を一次保持していた。スメールでより神に近い存在といえば、放浪者だろう。
そこでふと、放浪者はある事に気付いた。
「ところで、今回は旅人は同行しなくていいのかい?前回世界樹にアクセスした時は、彼も監視役として居ただろう」
「えぇ、もうわたくしの中で笠っちは、十分信頼に足る人格であると判断したわ。故に、今回は単独で世界樹にアクセスしてもらおうと思ったのだけれど…」
刹那、ナヒーダがニマリとした表情を放浪者に向けた
「貴方は…旅人が居たほうが良かったかしら?」
「はぁ?」
「そうね、旅人もそう毎日暇ではないでしょうけど、きっと今呼べば飛んでくるわ」
「いや、だから何故そうなる?僕は一度も、旅人と同行したいなんて…」
しかし、放浪者が弁明した頃には時既に遅し。
ナヒーダは、さも放浪者の心のすべてを見透かしたような顔を見せるのだった
「旅人も呼びましょう」
「ちょっ…だ、だから…僕は一言も言ってないぞ。旅人が誤解するような発言だけはよしてくれよ」
「あら?何故旅人が誤解してはいけないのかしら?」
「………」
「ふふっ。わたくしも、久しく旅人とは会っていないから、それも兼ねてよ」
「…はぁ。もう勝手にするといいさ」
暫くして、スラサタンナ聖処の重い扉が音を立てて開かれた。
「ごめん、お待たせ!」
金髪の客は、ヒラヒラと手を振りながら二人に近付いてきた。もちろん、近くには客の最高の親友兼案内役が居た。
「いらっしゃい、旅人にパイモン。久しぶりね」
「久しぶり、ナヒーダ」
「久しぶりだな!会いたかったぞ、ナヒーダ!」
「えぇ、わたくしもよ」
皆が元気よく挨拶を交わす中、一歩引いた所で放浪者は旅人を眺めていた。
ふと、二人の視線が混じり合った
「あぁ…笠っちも、久しぶり。最近は塵歌壺に来てくれなかったけど、学校が忙しかった?」
大抵旅人は、人前ではほぼ放浪者の名を呼ぶことは無い。その理由は定かでは無いが、一つは馴染み深いというのもあるのだろうが、恐らく一番の理由は恥じらいから来るものなのだろうか?放浪者も、それを理解しているのかしていないのか、そこについては今まで深く言及してこなかった。
「あぁ。僕にも都合があるからね」
「そう。近いうちに、またおいでよ」
「ふふ、巷では、こう言うのを半同棲状態と言うのかしら?」
「黙りなよ。君も。ニヤニヤしてないで、とっととやるべき事をこなすべきだろ」
「はいはぁい」
照れ隠しなのか、特に目を合わせずに笠を深く被り顔を隠す放浪者、なんとか顔を見ようと近寄る旅人、それを見て微笑ましそうに笑むナヒーダ、ほわほわした雰囲気に呑まれそうになるパイモン。
面白可笑しい状況の中、二人は世界樹へとアクセスした。パイモンは、丁度昼時だったので昼食を調達しに行った。この行動は、ナヒーダの粋な計らいによるものなのが…真相はナヒーダにのみぞ知る、であった。
To be continued……