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第2話:恋レアの使い方
「──使用条件を満たしていません」
教室の隅で、天野ミオはスマホ画面にそう表示されたことに肩を落とした。
《共感》カード。
【発動条件:相手の話に最後まで耳を傾ける。話者の目を2秒以上見て、言葉を返すこと。】
シンプルそうに見えて、ミオにとってはとても難しい条件だった。
細身で色白、いつも前髪で目元を隠しているミオは、教室では“空気”のような存在。
人の話を聞くことはできても、目を見るのも、言葉を返すのも、勇気が必要だった。
今日のターゲットは、席が隣の大石リノ。
明るくて、いつも誰かに話しかけている子だ。
「それでね、放課後に新しいコスメ買いに行くんだけど──」
チャンスはあった。話題も軽い。けれど、ミオは途中で頷いただけで、視線を逸らしてしまった。
ピピッ、と音が鳴る。
スマホの恋レアアプリに、✕マークとともに「失敗ログ」が記録された。
リノは気づいていない。ミオがカードを使おうとしていたことにも。
でもアプリは正直だった。
> 《共感》未発動:視線不足・反応の遅れ
まるで“恋愛診断機”のような冷たい表示に、ミオは息を飲む。
「ねえ、それ、今のログだよな?」
突然、後ろから声がした。
大山トキヤが立っていた。
ジャケットのポケットに手を突っ込んで、ミオの画面をちらりと見ている。
「共感って、カード使わなくてもできるだろ」
彼はそう言って、窓の外を見た。陽が傾き始め、グラウンドには恋レアカードで演出されたカップルが何組もいた。
《すれ違い演出》で手が触れる男女。
《夕焼け補正》を発動して告白する男子。
《感情シンクロ》でハグするカップル。
そのすべてが、アプリの“演出支援”によって成り立っていた。
「使えるかどうかより、使わなきゃ恋愛できないって風潮が、怖い」
トキヤの言葉に、ミオはまた返せなかった。
でも、スマホを見つめながら、小さくつぶやいた。
「……でも……使ってみたい。何も言えなかった私が、誰かと……つながるきっかけになるなら」
トキヤはその言葉に、少しだけ目を細めた。
「だったら、俺と話してみる? ……目を見て、ちゃんと返してみて」
次の瞬間、ミオの手にある《共感》カードが、かすかに光り始めた。