テラーノベル
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外に出ると、空気が変わっていた。
教会の石の匂いが消え、湿った土の匂いが立ち上がる。
風は低く、霧が地面を這っていた。
ホームズは何も言わず、歩き出した。
私はその後を追った。
道は細く、足元はぬかるんでいる。
遠くで、水の音が続いていた。
やがて、視界が開ける。
川だった。
水は静かに流れている。
だが、音だけがはっきりと残る。
ホームズは立ち止まった。
私は少し遅れて並んだ。
足元の石は濡れている。
踏めば、わずかに滑る。
「ここだ」
短く、それだけ言った。
私はうなずいた。
しばらく、誰も動かなかった。
川は変わらず流れている。
何も起きていないように見える。
だが、どこかが違っていた。
私は目を落とした。
石の上に、跡がある。
浅い。
水に消えかけている。
一つ。
……いや。
もう一つ、あるようにも見えた。
形ははっきりしない。
重なっているのか、離れているのかも分からない。
私は顔を上げた。
ホームズは、それを見ていた。
何も言わない。
ただ、わずかに視線を動かした。
その先に、誰かがいた。
川の少し離れた場所。
霧の中に、細い影が立っている。
メレッドだった。
こちらには気づいていない。
動かない。
ただ、川を見ている。
風が止んだ。
音が消える。
——水。
——夜。
——呼ぶ声。
彼女の肩が、わずかに揺れた。
それでも、振り返らない。
呼ばれているようにも見えた。
あるいは、見ているだけかもしれない。
私は声をかけなかった。
ホームズも、動かなかった。
やがて、風が戻る。
川の音が、また続き始めた。
メレッドはゆっくりと歩き出し、霧の中に消えた。
私は、足元の石にもう一度目を落とした。
跡は、ほとんど消えていた。
水が、すべてを均していく。
ホームズは何も言わなかった。
川の音だけが、変わらず続いていた。
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るしゅ
鬼霧宗作
鬼霧宗作