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手足の動かし方を覚え
歩き方を覚え
言葉の発し方も覚え
橋の持ち方も覚え
食べ物の食べ方も覚え
飲み物の飲み方も覚えた
なんだって、やってきたのに
それなのに貴方は僕を捨てるのですか
たった1粒の、涙が理由で………。
………夢を見るのは、久しぶりだった。
僕は寝ても、あまり夢を見ない。
でももし夢を見れば、高確率でこの夢だった。
僕は人形だから、睡眠が必要なのかどうかすら分からないけれど。
そもそも、僕は放浪の身。こんな風に、宿以外で安定した屋根の下朝を迎えるのはおかしい事の筈なのに。
…僕も、絆されているのかな。
そう思いながら、隣で眠る青年の頬をつねる。
「う…ぅぅ」
しばらくつねり続けると、彼は唸り声を上げた。
「……『 』…?」
「やっと目を覚ましたかい」
「おはよぉ」
「あぁ」
寝起きのふやけた顔で微笑む彼は、朝イチで僕の名を呼んだ。君だけが呼ぶ、僕の名前
「あ”っ…いててっ…い、痛いよ…『 』…起きたからもうそれやめ…いでででっ!」
なんだか胸のあたりがこそばゆい気がしたので、腹いせにもっと強く頬をつねってやった。
予想通りの反応。予想通りの言葉。全てが予想通りなのに、少しだけ、本当に少しだけ、愛らしく感じてしまうのは何故だろう。
……こんな事を考えている時点で、やはり僕は相当絆されているらしい。
「何か、嫌な夢でも見た?」
「……え?」
どうして。何故。君は読心術でも心得ているのか。 僕の考えている事が、大方理解出来るのだろうか。そこまで僕は、顔に出やすいのか?
先程まで寝ぼけ眼だった筈の彼の眼は、既に冴えているようだった。
「…愚問だね。そもそも人形の僕は夢を見ないよ。そんな事言ってないで、さっさと顔でも洗ったらどうだい」
「でも、じゃあ…じゃあ、なんで……」
泣いているの?
その言葉を云われて漸く気付いた。
僕の瞳からまたもや、水が滴っていることに。
「あ……」
刹那、目の前が暗くなった。
いや、暗くなったのではない、覆われたのか。
考える暇さえ無しに、彼の香りを感じた。お人好しで、周りの負荷を一心に受けてしまう、馬鹿で…優しい匂い。
「なんのつもりだい?」
「泣きたいなら、強がってないでそう言えばいいのに」
「……離せ」
「嫌だね」
「なら君を引き剥がすまでだ」
「やれるものならやってみてよ」
「…頑固な君を相手にした僕がバカだった」
「俺は君を裏切ったりしないよ」
「……」
「ねぇ
俺の名前、呼んで?」
俺も君の名前、呼ぶから。後に続いた言葉だった。
そういえば、そうだった。
僕の事を、名前で呼ぶのも
彼の事を、名前で呼ぶのも
お互い、一人だけなんだ
彼には、最愛の妹だけで。今はその妹は居ない。じゃあ…今は。今だけは。淋しがり屋な君の為に、名を呼んでやるのも悪くないんじゃないか。存在を明確に印してくれる、その名を。
……君には、恩があるからね。だから、特別
「……空」
「うん、なぁに?『 』」
…名前を呼ばれただけで、何故そこまで嬉しそうにするのか。よく分からない。だけど。
少しだけ、胸が暖かくなるような。…コレを”嬉しい”と云うなら…あるいは。
「…昔の夢を見た」
「だから…少し…ほんの少しだけ。」
僕はそういって、彼の肩に頭を預けた。
抱き締められている部位が熱い。顔が熱い。耳が、頬が熱い。
そういえば、今日の気温はいつもより高かった気がする。…今顔を上げてしまえば、なんとも言えぬ顔でニヤける嫌な顔が見えるだろうから、それだけは辞めとこう。
…もう少しだけ。この時間を。
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