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起床したら、顔を洗って、着替えて、朝食の準備。いつもと同じルーティーンをこなす毎日。
でも最近は、新しいことが一つ加わった。
朝食を終えると、病院で処方された薬を飲む。毎日欠かさず飲んでいる。よく仕事中にも飲むので、メンバーもその存在を知っている。
特に副作用もなく、病気自体もそれほど進行はしていなかった。少し前までは。
北斗は、異変を感じていた。
最近は、音楽の仕事をしていても、音がどこから鳴っているのかがわからなくて、変な風に聞こえる。しかも、あまり大音量だと頭に響いて、頭痛がする。音楽が聞こえないこともしばしばあった。
そのせいか、人の声も今までより若干聞き取りづらくなった。5人と話しているときでも、聞き返すのが多くなったのを自覚している。
でも今までメンバーにはたくさん気を遣わせたし、面倒もかけていた。それなのに、また不調だと言い出したら迷惑だろう。そう思い、北斗はメンバーのみんなには言えないでいた。
だが、今日は久しぶりに6人で集まる。また色々心配かけちゃうな…。少し憂鬱な気分になったが、気合を入れて仕事へ向かった。
ジェシー「で、こないだヒロミさんがさ…」
SixTONESの楽屋では、いつものようにみんなでわいわい話していた。北斗も笑顔で、話を聞いている。
樹「いいよなあ、お前は色んな人とフレンドリーに交流できて」
高地「ほんと羨ましいわあ」
ジェシー「まあそれが俺のいいところなんだけどねえ」
大我「自分で言うんかい」
慎太郎「おお珍しい、きょもがツッコミした」
大我「そう? まあ、樹に次いで2番目に、俺がしっかりしてるからねー」
高地「なんでだよw」
樹「あ、そういえばさ、北斗が前に、上白石萌音さんご飯に誘ったって言ってなかった? 行ったの?」
唐突に話を振られ、慌てて聞き返す。
北斗「え? 何?」
樹「カムカムで共演した上白石さん、ご飯誘ったって言ってなかったっけ?」
北斗の顔から少し血の気が引いた。
ややかすれた声で言う。「え……? ごめん、聞こえない」
樹「え…俺、前にいるよ? 右側じゃないのに、聞こえない?」
北斗は頷く。左耳を樹に向け、再び尋ねた。「何て?」
樹「…いや、そんな急用じゃない。大丈夫だよ」
慎太郎「でも最近、聞き返すの多いよな。なんかあった?」
北斗「……いや、大したことじゃないんだけどさ。最近、右の聴力、下がってきたなって自覚があって。人の声も聞こえないんだよね」
高地「そっか…」
北斗「そんな心配しなくていいから。あ、もう時間」
えっ、と慌ててみんなが時計を見ると、スタジオ入りの数分前だった。
雑誌の撮影だからそんなに急ぐ必要はないのだが、バタバタと立ち上がり、部屋を出る。
ジェシー「おっと、急げ~!」
樹「ヤバい、ジャケット忘れた」
大我「もう、はい」
樹「ありがと」
慎太郎「…北斗、辛かったら言えよ」
高地「誰でもいいからな」
北斗「うん、ありがとう」
迷惑になってないかな、と心配したが、素直に声をかけてくれたことに安堵した。
最初は集合カットだった。
立ったままで、6人がくっつく。
カメラマン「田中さん、もうちょっと京本さんから離れて。バランスがちょっと悪い」
樹「あ…すいません」
大我「もーお前はくっつきすぎなんだよ」
樹「しょうがないじゃんかよ」
ジェシー「ずるいよ~!」
高地「ここでイチャイチャすんなって笑」
カメラマン「松村さん、もうちょい京本さんに近づいて」
北斗「……え、何ですか」
カメラマン「もう少し、京本さんに近づいてください!」
北斗「あ、はい」
慎太郎(やっぱ、この距離でも聞こえてない…)
慎太郎は、一人怪訝な顔をしていた。
集合でのカットが終わると、休憩に入った。
慎太郎は、椅子に座っている北斗に近づく。左側から声をかけた。
慎太郎「北斗、さっき……やっぱり、カメラマンさんの声聞こえなかった?」
北斗は少し驚いたような表情で、「…うん。ちょっと、聞こえにくさが増してるっていうか。たまに、頭痛もあるんだよね。大きい音とかが響いて」
慎太郎「ああ…。酷くなる前に、また病院で診てもらったほうがいいと思うよ」
そこに、高地がやってくる。「どうした? 二人とも、深刻そうな顔して」
慎太郎「まあ……北斗が、前より耳聞こえにくいらしいから、心配で」
高地「あぁ…」
慎太郎「さっきも前にいるカメラマンさんの声聞こえてなかったし、なんか頭痛も出てるみたい」
高地「そっか…。薬、真面目に飲んでたと思うけど。症状進む前に、病院行きな」
北斗「うん。でも、ほんとに心配いらないから。迷惑かけるの、嫌だし」
高地「誰が迷惑だなんて言った」
いつもとは違う、鋭い高地の声に、二人は目を張る。
ほかの3人も、振り向いた。
高地「お前が、話の最中で聞き返したりしたとき、迷惑だって言ったやついるか? いないよ」
北斗「でも、それは、心の中では思ってるかもしれないじゃん。みんなだけじゃなくて、スタッフさんとかでも。本心を隠してるだけじゃ」
高地「ハァ…。わかってないな。お前は人の心を読むの、得意だろ? 気持ちを汲み取るのとか。それなのに何にもわかってない。メンバーはもちろん、お前のまわりで、そんなこと思うやついないって」
慎太郎「北斗のまわりの人は、みーんな優しいんだから。もちろん俺らも」
慎太郎は笑って言った。その様子を見ていた大我、樹、ジェシーも口を開く。
樹「助け合いは、当たり前だろ」
ジェシー「そうだよ。これは迷惑でも何でもなくて、ただのおせっかいだから」
大我「もし辛いなら、仕事での対処方法を俺らも一緒に考える」
北斗「……やっぱり、俺のまわりの人ってみんな優しいんだ。ありがとう」
高地「あったりめーだろ!」
みんなの表情に、笑顔が戻った。
ある日の夜、樹は、ラジオの放送でラジオ局に来ていた。
今日の相棒は、北斗。病気がわかってからも、本人がやると言ったので続けてきた。樹も、北斗が楽しそうにしているので止めなかった。
ブースに入り、先にスタンバイする。
と、ドアが開き、コート姿の北斗が入ってきた。「おはよう」
樹「え?」
北斗「嘘、こんにちはだよ」
樹「いや、こんばんはだろ笑」
まだラジオは始まっていないのに、笑いが絶えない。
すると、樹は、北斗の耳になにやら光るものを見つけた。
樹「ん、北斗、それ……耳に何つけてるの? え、もしかしてピアス?」
北斗「なんでだよ。俺の耳にどうやってつけるの。これね、補聴器。右耳だけ、オーダーメイドで作ってもらった」
樹「へえ! 作ったんだ。すごい、どんなの? 見して」
樹は北斗の補聴器に興味津々だ。一旦外して見せる。
耳に直接入れるタイプのものだ。色は黒で、装飾にキラッと光るダイヤモンドのようなものがはめ込まれていた。
北斗「イヤモニにも見えるように、同じような形で、黒にした。あとこのダイヤは…まあ本物じゃないんだけど、やっぱSixTONESって言ったら宝石じゃん。だから、どうしてもつけたくて」
樹「そうなんだ。確かにイヤモニみたい。いいじゃん、かっこいい。オシャレ。これで、安心だね」
北斗「うん。ラジオもやりやすいし」
褒められて、まんざらでもない笑みを浮かべた。
樹「えっ、でも、大きな音がしたら頭痛とかするんだろ? 補聴器なんて着けて大丈夫?」
北斗「うん。聴力がもうほとんど固定されちゃったから、補聴器でも大丈夫なんだって」
樹「へえ」
新しい補聴器のおかげで、ラジオは難なくこなすことが出来た。
ラジオでは、得意げにリスナーに補聴器を自慢していた、北斗だった。
樹「ったく、ダイヤをつけてもらったのが嬉しいからって、すぐ喋るかなぁ。補聴器つけてるって、ずいぶん重大発表なのに。『SixTONESだから、ダイヤモンドなんだよね!』って。はぁ、呆れるわ」
一人、ブース内でぼやいていた樹だった。
続く