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冬休みが明けたある日、美咲から「奈良公園にもう一度行かない?」と誘いが届いた。悠真は即座に「行こう」と返事をした。試験勉強のために通った図書館での偶然の出会いから始まった二人の関係は、今や自然に「会う」ことが当たり前になりつつあった。
待ち合わせは近鉄奈良駅。冬の冷たい風が吹き抜ける中、美咲は白いコートに淡いピンクのマフラーを巻いて現れた。悠真は思わず言葉を失った。 「……似合ってるな」 「え? ありがとう。寒いから厚着しただけだよ」 美咲は照れくさそうに笑った。その笑顔に、悠真の胸は温かくなった。
二人は駅から歩いて奈良公園へ向かった。鹿たちがのんびりと芝生を歩き、観光客がせんべいを差し出している。冬の空気は澄んでいて、木々の間から差し込む光が柔らかかった。
「鹿って、近くで見ると意外と大きいね」 「そうだな。俺、小さい頃に追いかけられて泣いたことある」 「ふふ、悠真くんにもそんな可愛いエピソードがあるんだ」 美咲は楽しそうに笑い、鹿せんべいを差し出した。鹿が近づいてきて、美咲の手からせんべいを食べる。その様子を見ているだけで、悠真は心が和んだ。
東大寺の大仏殿へ向かう途中、美咲がふと立ち止まった。 「ねえ、悠真くん。こうやって一緒に歩いてると、なんだかデートみたいだね」 「……デートだろ、これは」 悠真の言葉に、美咲は目を丸くした後、照れくさそうに笑った。 「そっか。じゃあ、初デートだね」
その一言に、悠真の心臓は大きく跳ねた。彼女の笑顔が、冬の光の中で輝いて見えた。
大仏殿の前で、二人は立ち止まり、巨大な大仏を見上げた。 「やっぱり迫力あるね」美咲が感嘆の声を漏らす。 「うん。何度見ても圧倒される」悠真も頷いた。
しばらく沈黙が続いた後、美咲がぽつりと言った。 「悠真くんと一緒にいると、安心するんだ」 「……俺もだよ」 その言葉は、互いの心を少しだけ近づけた。
帰り道、夕暮れの奈良公園はオレンジ色に染まっていた。鹿たちが影を落とし、空気はさらに冷え込んでいく。美咲がマフラーを直しながら言った。 「今日、楽しかった。ありがとう」 「俺も。……また行こう」 「うん、約束」
その「約束」という言葉が、悠真の胸に深く刻まれた。友情から恋へ、そして恋から未来へ。二人の物語は、確かに一歩前へ進んでいた。