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(響野先生は……何か大切な事を伝えようとしているのかな……)


過去にも呼び名に関しては同じような事を言われた事はあるが、侑がこんなにシリアスな表情を浮かべるのは、今まで見た事がない。


たかが呼び名、されど呼び名。


冷徹で己にも他人にも厳しい響野侑が、まさか恋人の呼称でこんなに深刻になるとは思いもしなかった。


これから先、彼の意外な一面をもっと発見できるかもしれない。


「…………瑠衣…………呼んでくれ……」


どことなく焦燥感を滲ませている彼に、瑠衣は鋭利な眼差しを受け止めたまま、辿々しく彼の名を唇から零す。


「…………ゆっ……ゆう…………さ……ん……」


瑠衣が呼んだ瞬間、侑の顔立ちがフッと緩み、形の綺麗な唇が微かに弧を描いている。


「…………自分から名前で呼べって言ったのに、いざ呼ばれると恥ずかしいな」


侑がボソッと独りごちると、長い前髪をクシュっと掻き上げ、久々に見た彼の仕草に、瑠衣の胸の奥がキュウっと甘美な痛みに包まれた。




「なぁ瑠衣。お前に…………どうしても伝えたい事があるんだ」


彼が言うと、瑠衣の顔色が瞬時に不安の色を覗かせたが、何もなかったように表情を戻す。


どうしても伝えたい事。


本当ならベッドから起き上がり、姿勢を正して彼の言葉を聞いた方がいいという事は瑠衣もわかっている。


だが、一度あの世へ行き掛けた今の彼女にとって、身体を起こす事もままならない。


それでも瑠衣が起きあがろうとすると、侑は繊麗な両肩に触れて制止した。


「瑠衣。寝ている状態で構わない」


彼女は横になったまま、面差しを侑に向けると、彼は瑠衣の頭を慈しむように撫で、額に唇を落とす。


長い前髪を掻き上げ、大きく息を吐き切り、侑が瑠衣に視線を絡ませた。


彼女は黙ったまま、彼からの言葉を待っている。


愛しい男からの眼差しを受けながらも、瑠衣の鼓動が少しずつ大きく打ち鳴らされていくのを感じていた。


「瑠衣。俺たち…………家族にならないか?」

もう一度、きかせて……

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