テラーノベル
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二人を乗せた車が走り始めた瞬間、自販機のそばに停まっていた青いスポーツカーが突然エンジンをふかし、勢いよく発進した。
車は颯介たちの後ろにつき、そのまま距離を詰めてくる。
それに気づいた颯介が、隣の凛へ声をかけた。
「ん? あいつ、自分の車に乗り換えたのか?」
凛が振り返ると、青いスポーツカーがぴたりと後ろに張り付いているのが見えた。
「あの青い車……西岡さんのですか?」
「たぶんな。さっき自販機の近くに停まっていたやつだ。彼の家ってこの辺なのか?」
そこで凛は、以前西岡がこの近くに住んでいると言っていたことを思い出した。
「たぶん、そうかも……。私たちが食事をしている間に、一度家へ戻って車を取ってきたのかもしれません」
「やっぱり……しかし、しつこいにもほどがある。あいつ、何がしたいんだ?」
「社内でも営業成績はトップクラスで、女子社員からの人気も高いんです。学生時代もかなりモテていたって以前聞きました。だから、私が何度も誘いを断ったのが、きっと気に入らなかったのかもしれません」
「たとえそうだったとしても異常だよ。同じ男として理解できない。執着っていうのは、本当に厄介だな」
「………」
(私が彼のプライドを傷つけたってこと? もしそうだとしても、西岡さんは沢渡さんとも深い関係だし、いったい何を考えているのか本当に理解できない……)
先ほどまで颯介のキスの余韻でふわふわしていた凛だったが、西岡の異様な執着を目の当たりにし、胸の奥から怒りが一気にこみ上げてきた。
(真壁さんにまで嫌な思いをさせて……許さない……絶対に許さないんだから!)
本来の気の強さを取り戻した凛は、週明けから西岡への態度をはっきり変えると心に固く誓った。
その頃、青いスポーツカーのハンドルを握る西岡は、胸の奥で黒い感情をくすぶらせていた。
狙っていた女の恋人が『不動産王』だと知り、理由もなく苛立ちがこみ上げてくる。
二人の関係がどうしても許せなかった。
そもそも西岡が不動産業界に飛び込んだのは、業界の仕組みを徹底的に学び、いずれ独立してフリーの仲介業者として成功するためだった。
富裕層を顧客に抱え、莫大な手数料をすべて自分の懐に入れる。
華やかな世界に身を置き、一財を築き、夢のような生活を送る……それが彼の描いていた未来だった。
女も車もタワマンも、すべてを思い通りに手に入れる。
そんな世界を夢見ていた二十代の頃、西岡はある投資話を持ちかけられ、都内のワンルームマンションをローンで購入した。
数年で倍の値になる……彼はそう読んでいた。
だが現実のバブルは、港区、千代田区、品川区、中央区といったごく一部のエリアに限られていた。
西岡が買った物件は、その『恩恵エリア』から大きく外れており、価格は一向に上がらない。
それどころか、さらに追い打ちをかけるように、隣地にデータセンター建設の計画が浮上し、物件価値は下落の一途をたどった。
気づけば物件価格は買値より三割も下落し、売ろうにも売れない状態に陥っていた。もちろんローンはまだ残ったままだ。
こうして西岡は、かつて思い描いていた未来とは程遠い、鬱屈した日々を送ることになった。
ハンドルを握りながら、西岡は前を走る車を恨めしそうに睨みつける。
「あいつ、俺がいつか買おうと思ってた高級外車に乗りやがって……しかも最上位グレードだ。おまけに助手席には、俺が狙ってた女まで……ちくしょう! 調子に乗るにもほどがある。このまま二人でホテルにでも行って、今度はあいつの上に二階堂が乗る姿なんて……想像したくもないぜ。絶対阻止してやる!」
品のない独り言を吐き捨てながら、西岡は颯介たちの車を見失うまいと執拗に追い続けた。
その頃、奈美は渋谷区・松濤の街を歩いていた。
今日はタクシーで颯介と凛の後をつけていたが、途中で見失い、苛立ちが募っていた。
(んもうっ、あのへっぽこタクシー運転手! 高いお金払ったのに、これじゃ詐欺じゃない!)
怒りを抱えたまま歩いていた奈美だったが、ふと妙案が浮かぶ。
(そうよ……彼にアタックする前に、まずは彼の『お母様』と仲良くなればいいんじゃない?)
奈美は以前、西岡から颯介の自宅住所を聞き出しており、何度か様子を見に来ていた。
その中で、颯介が実の母親と二人暮らしだということも知った。
(彼のお母様だって、私みたいに可愛くて従順なお嫁さんの方が絶対に気に入るはず。二階堂みたいに気が強くてズバズバ言うタイプより、私の方がいいに決まってるわ!)
そんな都合のいい妄想を胸に抱きながら、奈美は颯介の自宅へ向かった。
真壁家の門の前に立つと、周囲はすっかり静まり返っていた。
時刻は午後九時少し前。高級住宅街の家々には温かな明かりが灯り、通りを歩くのは犬を連れた裕福そうな夫婦くらいだ。
奈美は臆することなく、真壁家のインターホンを押した。
しばらくして、母親と思われる女性の声がスピーカーから聞こえる。
「はい、どちらさまですか?」
「夜分にすみません……通りがかりの者なんですが、ちょっと足をくじいてしまって……」
奈美は痛みに耐えているふりをしながら、弱々しい声で訴えた。
「あらあら、大変。ちょっとお待ちくださいね」
颯介の母はそう言うと、すぐに玄関から出てきて門を開けた。
「大丈夫ですか?」
「突然すみません……実は携帯を家に忘れてきてしまって、タクシーも呼べなくて……」
「それはお気の毒に。よかったら、一度うちへお上がりになって」
「えっ……よろしいんですか?」
「こんなに冷え込んでいるんですもの。タクシーが来るまで温まっていくといいわ」
「わぁ、ありがとうございます」
「さあ、どうぞ」
「では遠慮なくお邪魔します」
足を引きずる演技を続けながら、奈美は口元をにやりと歪め、颯介の母が差し出した手につかまり、嬉しそうに中へと入っていった。
コメント
24件
(。>д<)ヤバいよ!
西岡も怖いが奈美は家にまで上がり込みお母さんの人の良さに付け込んでるのが執着以上の狂気を感じる😱😱 颯介さんが知ったら益々嫌われちゃうよ。故意にしてるし警察に突き出していいレベルだわ。。
後先考えずに行動する男女2人の脳内がすごいお花畑でびっくり仰天🎆😶👎 西岡は自分の読みの甘さでの失敗で颯介さんに妬み満々だし、奈美はストーカーまがいの仮病を使ってお母様に取り込もうと意気揚々とご自宅に上がり込む始末😱⚡️ でも颯介さんの話をし出したらお母様も颯介さんに連絡するだろうし今度は颯介さんの盗聴までしないでほしい🙏🙏