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【神父の記録 2】
図書館を訪れた。
古い石造りの建物で、
外の霧をそのまま抱え込んでいるようだった。
管理人は不在だった。
扉は開いている。
———
地方史の棚に、目的の記録はあった。
背表紙は同じ色で揃えられ、
年代順に並んでいる。
二十年前の項を引き抜く。
重い。
頁をめくる。
———
本地域における異端的処置は、
共同体の秩序維持の一環として——
そこで、指が止まる。
続きはある。
文章は整っている。
だが、何かが抜けている。
誰に対して行われたのか、
名前がない。
———
別の巻を開く。
同じ記述。
語句も、順序も、同じ。
ただ、日付が違う。
———
記録は、正確であるはずだ。
正確すぎるのかもしれない。
———
管理人が戻ってきた。
こちらを見る。
何も言わない。
私も何も言わない。
———
外に出る。
霧は変わらない。
川の音が、近い。
———
神父:
資料を見た
ユアン:
そうか
神父:
名前がない
ユアン:
必要ない
神父:
なぜだ
ユアン:
この村では、そういうことになっている
神父:
……
(記録ここまで)
———
彼は、否定しない。
肯定もしない。
ただ、そこにあるものを指す。
———
帰路、誰かの視線を感じた。
振り返る。
誰もいない。
———
二十年前の件について、
役所の記録も確認する必要がある。
だが、
この調査は、
続けるべきではないのかもしれない。
———
理由は説明できない。
ただ、
ここにいること自体が、
すでに遅れているように思える。