テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
【書簡】
ワトソンへ
この書き出しで許されるかどうか、少し迷った。
あなたに手紙を書くのは、ずいぶん久しぶりになる。
アフガン以来だろうか。
いや、さすがにそれほどではないにしても、
少なくとも、こうして頼み事をするのは初めてかもしれない。
———
私はいま、スコットランド北部の小村にいる。
静かな場所だ。
何も起こらないはずの場所だった。
———
だが、ひとつ、気にかかる出来事がある。
新聞で目にしたかもしれない。
川での転落死だ。
警察は事故と判断している。
それ自体に異論はない。
———
問題は、その後だ。
誰も何も言わない。
いや、違う。
言わないのではない。
言えないのだ。
———
二十年前にも、同じことがあったとされている。
だが、その詳細を語る者がいない。
調べようとすると、話題が途切れる。
視線が外れる。
———
私は、この村の外の人間だ。
だから気づくのかもしれない。
あるいは、
気づいてはいけないのかもしれない。
———
これが単なる思い過ごしであればよい。
その場合、この手紙は忘れてくれて構わない。
———
だが、もし、
あなたが何かを感じるのであれば、
来てほしい。
———
もし可能であれば、
あの方にも伝えてほしい。
———
私は、少しばかり、
ここに長く留まるべきではない気がしている。