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第11話「さかなの声を入れすぎた」
登場人物:ナギオ=スイ(波属性・1年・料理部)
1年生のナギオ=スイは、波属性の料理部員。
くせ毛まじりの短髪に、常に水っぽい瞳。青緑のエプロンを制服の上から着たまま、朝から台所に立っていた。
魚と話せるわけじゃない。でも、魚の“波”が、ナギオにはよく響く。
「今日の共鳴料理は、海魚の塩酢しぐれ」
先生が言ったとき、ナギオはもう包丁を握っていた。
──料理とは、「感情」を「波」にし、それを「食材」にぶつける技術。
共鳴が成功すれば、味は増幅し、食べ手の波域まで届く。
しかし、波が強すぎると、“食べた側”にも不安定な共鳴を起こす危険がある。
ナギオは“昨日の気持ち”を持ち込んでしまった。
昨日、部屋の魚が死んだ。
ナギオは気づかなかった。
水槽の水が少し濁っていたのに、塩素(ソルソ)水を足しすぎてしまったのだ。
「もっとちゃんと波を見てれば……」
悔しさと、残響する「さかなの声」。
料理に、そのまま“波”が流れ込んだ。
食べた数人の生徒たちは、共鳴酔いを起こした。
「この味、涙みたい……」「なんか胸が重い……」
ナギオは調理場の隅にしゃがみこんだ。
「やばい、やりすぎた……」
そこに現れたのは、波属性の2年・ミト=アワヨセ(料理部)。
派手で明るい、けれど共鳴の狂いやすい先輩。
「ナギオ、魚に謝ってもしょうがないよ」
「でも、魚の“声”は、たぶん届いてる」
「今度は、ちゃんと食べてもらうために作ろ?」
「魚の声じゃなくて、自分の波で」
ナギオは次の日、同じレシピを繰り返した。
ただし、涙は入れず、包丁の音と息のリズムを波にのせた。
出来上がった料理には、穏やかで静かな“終わり”が共鳴していた。
食べた誰かが言った。
「……この味、今日で終わることを、許してくれる味だね」
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