玄関を開けたら、テレビの音が聞こえた。
ただの情報番組。
たぶん“あいつ”が、無意識でつけっぱにしてるだけ。
リビングをのぞいたら、やっぱりいた。
ソファでダルそうに転がってて、ポテチの袋がひとつ空いてる。
「……おかえり」
小さい声で言ってきたけど、私は特に返さずにそのままキッチンへ。
冷蔵庫を開ける。
昨日のコンビニサラダと、飲みかけの麦茶。
晩ごはん作る気はない。
向こうも作るタイプじゃないし。
⸻
リビングに戻ると、
あいつはちょっとだけ体を起こして、私のほうを見た。
「今日、なんかあった?」
「……別に」
ほんとは、帰り道に見かけたことを言おうか迷ったけど、
結局やめた。
「ふーん……」
あいつはそれ以上何も聞いてこなかった。
それが少し、助かったような、つまらないような。
⸻
しばらく無言のまま、
私はソファの端っこに座って、スマホをいじった。
あいつはCMに入ったテレビをぼんやり見てて、
たまにこっちをチラ見してる気配がした。
「麦茶飲む?」
ふと、あいつがそう言った。
「いらない」
間髪入れずに答えたのに、
しばらくしてからコップに注がれた麦茶が、
テーブルの端に置かれてた。
(……うざい)
でも、そのままにはしなかった。
一口だけ、飲んだ。
⸻
何もない夕方だった。
でも、ほんのすこしだけ、
誰かと時間を分け合ってる気がした。
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