テラーノベル
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侑に包み込まれた瑠衣が、更に顔を赤らめながら侑の胸に埋めると、渋い声音が彼女の耳朶をくすぐる。
「…………俺の名前……呼ぶのが恥ずかしいのか?」
ニヤリとしながら唇を歪める侑に、瑠衣が辿々しく肯首した。
「恥ずかしいし、恐れ多くて呼べないし……。っていうか、さっき先生を呼んだ時に言おうとした事、忘れちゃったよ……」
頬を膨らませ、拗ねた表情が可愛いと、侑は瑠衣を抱きしめながら思う。
ふと、瑠衣が言おうとしていた事を思い出したのか、『あっ……』と声を小さく上げ、滑走路から離陸した飛行機を見つめた。
「私…………先生の生まれ故郷のウィーンへ……いつか行ってみたいなぁ……」
彼女の言葉に、侑の表情が緩み、髪を撫でながら答える。
「…………そうだな。ウィーンはいい所だ。瑠衣を連れて行きたい」
「本当ですか!? 楽しみ……!」
瑠衣が破顔させながら見上げると、侑は彼女にそっと唇を重ねてきた。
唇を離すと、瑠衣が侑に眼差しを送っている。
彼女が時折その潤んだ瞳で見つめてくると、侑は鼓動が大きく跳ね上がってしまう。
「先生って…………冷徹かと思ってましたけど……意外と熱っぽい部分もあるんですね。再会してから、先生に抱きしめられるなんて、思いもしなかった事だし。今もまだちょっと恥ずかしいけど……」
「…………抱きしめる以前に、俺とお前は既にセックスする関係だったけどな」
侑は瑠衣に不敵な笑みを深めながら言うと、瑠衣が悲しげに睫毛を伏せる。
「…………やっぱり……先生から見たら…………私の中に『娼婦だった愛音』がいるんですね……」
彼女が『娼婦だった愛音』として見られる事を気にしていたのを、侑はすっかり失念していた。
『九條瑠衣』として見て欲しい、と彼女が何度も言っていたのに。
揶揄い混じりに口にした事を迂闊だったと反省する侑。
「私………時々自分が『娼婦だった愛音』なのか、『九條瑠衣』なのか、分からなくなる時があって……。先生と再会したのは……『客と娼婦』だったから、しょうがないんですけどね……」
淋しげな声音で話す瑠衣の言葉に、また自分を避け心を閉ざしてしまうのではないか、今度は俺から離れていってしまうのではないか、と不安に思った侑は、彼女を更に引き寄せた。
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