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私を知らない太陽は、今日も明るく輝いている。
「起きるの遅いんだけど。さっさと朝飯用意して」
母親の声は苛立ちを孕んでいた。昨日父親と喧嘩したからだろう。私は下を向いたままキッチンに向かっていると、運悪く後から起きてきた父親にぶつかってしまった。
「どこを見て歩いているんだ」
その瞬間、頬に電撃のような痛みが走った。思わずその場に倒れ込みかけたがなんとか姿勢を直し、すぐに朝食を作り始めた。それ以外の選択肢はなかった。
手を洗うために、袖をまくる。赤と青と紫のオンパレードだった。反射的に隠そうとした右手を引っ込めて、蛇口を捻った。
リビングからは母親と父親の怒鳴りあう声が聞こえてくる。今にも込み上げてきそうな涙を必死に抑え、なんとか作り終えた。
「お待たせ、いたしました、朝食で、ございます」
空気に圧されて声が震えた。母親も父親も、ちっと舌打ちをして手をつけ始めた。
「ああ、まずい。作り直し」
「あんた、今日くらいは学校行かせないと疑われるでしょ」
これしきのことで泣いてしまう私が、だんだんと惨めに思えてきた。再び込み上げてきた涙を見えないところで溢し、ボロボロの鞄を掴んでドアを開け、家を出ようとした。
「のそのそ歩いてトドみたい。さっさと消えてちょうだい」
そう言った母親の足は、私のそれを強く押した。直後、私は空中に放り出され、硬いコンクリートの地面に体を打ちつけた。
散乱した教科書や筆箱を拾い上げ、立ち上がろうとした次の瞬間。
「⋯⋯まただ」
視界が闇に蝕まれ、足取りがおぼつかなくなる。今までに何度も経験したが、原因は分からない。目の前が元通りになるのを待っていたら、母親の侮蔑のような、刺すような視線を感じ、そのまま登校せざるを得なかった。
学校は家から歩いて15分ほどの場所にある。あくまで私が歩いた場合の15分なので、本当はもっと短いはずなのだが。
重い足を引き摺るようにして敷地に足を踏み入れた途端、周囲の空気が凍りついたように冷たくなった。
汚い鞄やボサボサの髪に向けられる目線、何を言っているのかわからないほど小さい話し声。どんどん不規則に浅くなっていく息を隠しつつ、教室にたどり着いた。
その瞬間、頭に何かが落ちてきた。次に目に入ったのは、雪のように舞い落ちる粉末だった。
「あ、ひっかかった!」
クラスメイトの声が聞こえる。私は粉末を吸い込んでしばらく咳き込んでいたら、口に何かを詰め込まれた。
雑巾だ。
「空気が汚れるからちょっと黙っててね〜」
そうして何事もなく去っていく彼女の背中を、私はただ見つめるだけだった。その時少し、クラスメイトの2人からの視線を感じたが気のせいだっただろうか。
授業が始まって、先生が教室に来ても決して安心はできない。それはクラスメイトが先生に従わない、というわけではなく__
「それじゃ、ここの問題、セツナ解いてみろ」
歴史の先生が黒板を指差す。まだ習っていない内容だった。こっそり教科書を見ようにも、私は一番前の席なのでそんなことはできない。答えに詰まってしまった。
「こんな問題も解けないとか社会で生きてけないぞ。じゃあ💛🐹、答えられるか?」
彼ははっきりとした口調で解答を述べた。先生は満足そうに口角を上げて手を叩いた。
その時、わずかに💛🐹の視線を感じた。
彼の方を振り向いてしまった。
その判断が、間違いだった。