💛🐹の琥珀が私を捉える。数秒間沈黙が続き、はたと気づいた私は目を逸らした。
💛🐹は❤️🐶と並んで、このクラスの王子様のような立ち位置にある。そのためか沢山の女子に色目を使われていた。
「あいつ、💛🐹様と目合わせやがって……」
近くからそんな囁き声が聞こえた。おそらく登校した時の黒板消しをセッティングした女子だろう。
それに気づいた瞬間、私の体は震えた。放課後に待ち受ける、拷問と大差ない時間。それが今日もやってくるのだ。
「おっそーい」
放課後、予想通り呼び出された私は屋上にいた。そこには『彼女』がいた。
「申し訳、ありません……」
極限まで縮こまった喉を震わせ、そう言うのが精一杯だった。
「それじゃ、今日はおしゃべりでもしよっか」
彼女の口から飛び出た言葉に私は拍子抜けした。頭の中がクエスチョンマークで満たされていく。私はなにか言葉を返そうとしたが____
直後、私の本能は
振り向け
そう告げた。
咄嗟にドアの方を向いた私の目に、鉄パイプを持った男が現れた。
私は瞬時に身を翻す。足元数センチのところに鉄パイプが刺さるほどの勢いで振り下ろされた。
「くそっ」
悔しがる男の声を聞き、私は安堵した。してしまった。
「は・ず・れ〜♡」
嘲笑うような、高揚したような声が響く。
声の主を探ろうとしたその時、腸がちぎれる様な激痛に襲われた。
「かはっ……」
こみ上げてきた胃液を吐き出す。その瞬間、声は高揚から嫌悪へと転落した。
「汚い」
その一言とともに、私は再び息ができなくなるほどの痛みを感じた。
彼女や彼は、ずっと私で遊び続けていたと思う。下校時間が来て、先生に怒られるまで____。
目を覚ました時には、既に上弦の月が空高く昇っていた。今は何時くらいだろうか、確かめようにも時計はない。
「えっと、この形の月が南中するのはいつだっけ」
昔習ったことを思い出そうと頭を回した。
でも回らなかった。
私は警備員の目をかいくぐりながら敷地の外に出て、周りを見渡す。
皆、笑顔だった。
ある者は食べ物を片手に歩き、ある者は誰かと楽しげに電話している。
普通に生きたい。
彼らを目にした瞬間、経験したことの無いような強い欲望が湧き上がった。私だって、家に帰ったら美味しいご飯が食べられて、暖かいお風呂に入れてもらえて、困った時にはそばに居てくれる、そんな家庭に生まれたかった。
「帰りたくない……」
私は周りに聞こえないようボソッと呟き、近くのベンチに腰かけた。
次に私が気づいたのは1時間後だった。おそらくベンチで眠ってしまっていたのだろう。
空に瞬き始めた星々を見つめ、私はひとつの考えを思いつく。私にとっては一番大きな決断だったためか体はゆっくりしか動かなかったが、それでも私は『自由』に向かって歩んでいた。
夜の7時半過ぎ、人気のない公園でノートを広げ、ペンを手に取る。小さい頃に両親から買い与えられた数少ない宝物の一つであり、『独裁』の象徴でもあった。
拝啓 拾ってくださったあなたへ
あなたがこの手紙を読んでいる時、私は既に消えているでしょう。
そこであなたにひとつ頼みがあります。この手紙を幸雫高校に届けて欲しいのです。
住所を調べたい時は『ゆきだ』と入力するようにしてください。よく読みを間違えられるので。
ここから下は読んでも読まなくても結構です。ほとんどの方にとっては読まない方が幸せなことだと思いますが。
私は世間にとっての
そこまで書いたところで、私は手を止めた。背後から足音がする。
両親が迎えに来たのだ。私の計画は失敗に終わった。全ての覚悟を決め、音のした方を振り向いた。
「君、こんな時間までどうしたの?」
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