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光江さんは警戒心を取っ払う天才! その天才と天才作家もよく似ているところがあると感じる。 ホント、人との出会いが人を作る様に、誰ひとり欠けても未来の形は変化し続ける感じなのかな…。そう思うとまだまだこれから面白そうだ!と自分を重ねて見る。 まるでパズルの様。
光江さぁ〜ん❣️強くて温かくて優しい本当に光のような存在ですね✨👍私も光江さんのような人になりたいな☺️
裏表のない光江さんが綾子さんにどう聞き出すんだろう?と思っていたらまんまストレート🥎🔜で、所々驚きのあまりにちくわや卵焼きをポロポロ落とすのもご愛嬌で😆😅 そして松なんちゃらと神楽坂仁さんの事も綾子さんの話だけで全てを把握してわかってしまう分析力や洞察力がやっぱり凄くて尊敬します、光江さん😇✨✨
月曜日綾子はいつものように出勤した。
最近はロッカールームで同僚に話しかけられる事も多く綾子は普通に笑顔で受け答えが出来るようになっていた。
今はもう綾子の事を色眼鏡で見る者は誰もいない。すべて光江のお陰だ。
この季節屋上でのランチはさすがにもう寒いので先週から綾子は工場の三階にある休憩室を利用している。
この休憩室は天井の一部がガラスになっており秋冬の時期はサンルームのように心地良い。しかし作業場からは一番遠い休憩室なので利用する人が少なくて静かだ。
綾子はいつもここの一番奥の目立たないテーブル席に座っていた。
そこへ珍しく光江が弁当を持ってやって来た。
屋上でのランチをやめてからは昼休みに光江と会う事が少なくなっていたので久しぶりだ。
「よっこらしょっと」
「お疲れ様です」
「お疲れー、ここは晴れるとあったかいねぇ」
「はい、サンルームみたいで気持ちがいいです」
光江も弁当を広げて食べ始めた。
食べ始めてしばらくしてから光江がボソッと言う。
「内野さんってさぁ、もしかして神楽坂仁と付き合ってるのかい?」
ゴホッ ゴホッ ゴホッ
綾子は思わずむせる。
「あららむせちゃったね、ごめんごめん」
慌ててお茶を飲んでから綾子が言った。
「い、いえ、ちょっといきなりでびっくりしたものですから」
「ハハハ、図星だったんだろう?」
光江はいたずらっ子のように笑う。
「光江さん何でそれを?」
「昨日さ、あたし道の駅にいたんだよ」
「あっ!」
「兄の手伝いでマーケットに野菜を持って行ったんだよ。そうしたら神楽坂仁がいたからびっくりしてさー、そしたら内野さんが一緒にいるんだもん驚いちゃったよ」
綾子は焦った。という事はおでこにキスをされたのも見られたのだろうか?
「えっと……どこまで……?」
「おでこにチュッ♡ ハッハーしっかり見ちゃったよー」
光江はガハガハと笑った。
「えっと……」
「大丈夫だよ、誰にも言わないから。二人はいい仲なんだろう?」
「いい仲っていうか、まだ知り合ったばかりで」
「そんな風には見えなかったけどねー、傍から見たら仲の良い新婚夫婦みたいだったよ」
「…………」
「それにしても驚いたよ、まさか内野さんが神楽坂仁の恋人だったなんてさー」
光江は興奮して声のボリュームが大きくなる。
「ちょ、ちょっと光江さん声が大きいです」
「ハハッごめんごめんつい興奮しちゃったわー」
「えっと何から話していいのか……実は…前に話しましたよね? メールフレンドが出来たって」
「うんうん、顔も知らないメールフレンドだろう? それがどうしたんだい?」
「実は彼だったんです」
「?」
「メールフレンドは神楽坂仁だったんです」
そこで光江は口にくわえていたチーズちくわをポロッと落とす。
「光江さんちくわ落ちましたよ」
「あっ、だってさー内野さんが突拍子もない事を言うんだもん」
「事実なので…」
「えーっ? そんな事ってあるのかい? いやーびっくりした。まさかのあのベストセラー作家がメールフレンドだったのかい? こりゃたまげたー」
光江は目をまん丸にして驚く。
そこで綾子は仁がなぜ【月夜のおしゃべり】に登録していたか説明を始めた。
それを聞き終えた光江は更に驚いている様子だった。
「へーっ、それで実際に登録して体験しようとしてたのかい? ひゃープロってのは凄いねぇ。で、二人のやり取りを元に次の新作が作られるんだ。って事はノンフィクションドラマなのかい?」
「全部が全部使われる訳じゃないと思いますが要所要所では出てくるかもしれません」
「へー、そりゃあ楽しみだねぇ」
「あ、ちなみにドラマには光江さんも登場しますよ。私普段から光江さんの事も彼に話していたんです。それで『光子』という名で登場させるみたいです」
すると光江がまた咥えていた卵焼きをポロッと口から落とす。
「光江さん玉子焼き落ちましたよ」
「ハァッ? えっ? あたしがドラマに出て来るのかい?」
「はい」
綾子はニッコリ微笑む。
「ひゃーっ、そりゃ大変だ! 親戚中に連絡しないと!」
「フフフ、楽しみにしてて下さい」
「あーっ、あたしをモデルにしてくれたってだけでもう冥土の土産決定だよ。しっかり録画しなくちゃだわ」
綾子は光江が嬉しそうなのでホッとする。
「それにしても神楽坂仁の純愛物だろう? もう今から楽しみでしょうがないねぇ」
光江はドラマが普通の恋愛ドラマだと思っているようだ。しかし実際は少し違う。
そこで綾子は光江に全てを話す事にした。光江は綾子の息子が交通事故で亡くなった事を知っているのでちゃんと説明しておきたい。もちろんドラマには『陰』の部分があるという事も説明したい。
そして綾子は光江に話し始めた。
全てを聞き終えた光江はかなり驚いている様子だった。
「そういう事だったのかい。内野さんは綺麗で都会的なのになんでこんな田舎町で働いているんだろうってずっと不思議だったんだよ。でも漸く謎が解けたよ。前にも言ったけどあの松ナンチャラが作るドラマは中身がないんだよねー。それに松ナンチャラがテレビで喋っているのも何度も見たけどあの男はいつも本音を喋ってないよね。あいつは絶対心に闇を抱えているな―っていつも思ってたけどやっと腑に落ちたわ」
「闇ですか?」
「あいつは病んでるよ。何が原因でそうなったのかは知らないけど絶対に病んでる」
「…………」
「最初から夫や父親になる資格なんてなかったんだよ。だから結果的に別れて正解さ。それにしても好きでもない男との結婚生活は相当辛かっただろうね。あんたはよく我慢したよ。いくら子供の為とはいえなかなか出来るもんじゃない。よく頑張ったね」
綾子を労う光江の優しい言葉に思わず綾子の瞳から涙が溢れる。
光江の言葉はどんな時も心に染み入る。こうやって綾子はいつも光江に元気づけられてきたのだ。
慌ててハンカチを出して涙を拭うと綾子は言った。
「結局は自分の不注意で招いた事ですから」
「ううん、そんな事はないよ。どう考えても男の方に非があるよ。内野さんは全然悪くない。その松ナンチャラはそのうちきっと捕まるんじゃない? 変な性癖のある男はきっと他でもやってるさ。もしかしたら神楽坂仁が言うように本当に薬物に関わっているかもしれないしね。ほんとあんたは別れといて正解だったよ」
光江はしみじみと言った。そして今度は笑顔を見せてから言った。
「前の男運は悪かったみたいだけど今度の男は当たりだよ」
「当たり?」
「そう、神楽坂仁。あの男は大当たりだよ。だから大事にしなよ」
「そうなんですか?」
「うん、あたしが言うんだから間違いないよ。あたしはね、昔人相学を学んだ事があるんだよ。だから人の顔を見るだけで色々わかるのさ」
「人相学? 光江さんにそんな特技があったのですか?」
「うん、まあ半分はこれまで生きてきた中での経験値みたいなもんだけどさ。だから私の見立てでは神楽坂仁は妻や子供を大事にする男だよ。顎の形がね、最高にいいんだ」
「へぇ…顎の形でわかるんですね?」
「うん、そう。顎が広くてしっかりしていると家庭を大事にする。松ナンチャラの顎は尖ってたろう? 顎が尖っている男は避けた方がいいよ」
「もっと早く知りたかったです」
「それだけじゃないよ、神楽坂仁があんたを見る目には魂がこもっている。あの男は本物だ。内野さんを見る目に愛情が溢れていたからさ」
「本当に?」
「うん。あたしの見立ては100パーセント当たるよ」
「うわぁ、100パーセントは凄いですねー」
綾子は光江に言いながら嬉しい気持ちでいっぱいになる。
その後二人は弁当を食べ終えると仕事へ戻った。
仕事に戻る前に光江はドラマの放送日がわかったら教えてくれと何度も綾子に言った。
その日の仕事帰り綾子は久しぶりに美容院へ行った。
長い間伸ばしっぱなしのまま全く手入れをしていなかった髪は美容師の手であっという間に美しくなる。
髪を少し明るく染めカットが上手な美容師の手で流れるような美しいラインを作ってもらった。
元々美しい綾子はヘアスタイルを整えただけでさらにエレガントな女性へ変身した。
その頃東京の芸能事務所の一室で女性が苛立った声を上げる。
「純愛ドラマの主役って言ったのに何よこれ! 話が違うじゃないっ!」
女優の白鳥ほのかは激怒しながらマネージャーを叱責する。
「だから主役だって言ってるだろう? このドラマは主役が男女二人ずついるんだよ」
「私は『ゆりか』じゃなくて『透子』の方を演じたかったのよ! それなのに何で私が『ゆりか』を演じなくちゃいけないのよっ!」
「だからあの時俺は何度も聞いただろう? この仕事を引き受けてもいいかって。そうしたらお前は神楽坂仁のドラマの主役ならなんでもやるって言ったんだぞ? お前がいいって言ったから引き受けたんだぞ? なのに後になって文句を言うならちゃんと自分で確認しろよな。それにもう契約書は交わしたんだから断れないぞ!」
「キャンセルしなさいよっ! こんな役引き受けたら昔のスキャンダルが蒸し返されるじゃないっ! そんなの耐えられないわ。せっかく綺麗に揉み消したのに」
「いや、逆に話題性があって注目されていいんじゃないか?」
マネージャーは意地の悪い笑みを浮かべる。
「ハァッ? 何言ってんの? 白鳥ほのかが不倫の代名詞みたいになってもいいって言うの?」
「ほー、じゃあ言わせてもらうけどなー、お前は昔っから仕事のえり好みばかりして散々俺達を困らせてきたけどなー今のお前にはもうそんな余裕はないんだぞ? 向こうからオファーが来る仕事はほぼゼロだしこっちから頼みに行っても断られてばかり。オーディションも嫌がる。だからお前は仕事を選ぶ立場にはないんだよ。30過ぎても芽が出ない女優は仕事を貰えるだけでもありがたいと思え。そうそうそれともう一つ言っておくけどなーお前は事務所から借りた金の返済をまだ全然してないよなー? ったく、お前の整形代に一体いくらかかったと思ってるんだ」
「わかってるわよ。そのうちちゃんと返すから」
「ハッ? 仕事もねーくせにどーやって返すんだ? 払えもしねーくせに偉そうな口をきくな」
「…………」
「とにかくこの仕事をどうしてもやりたくないって言うんなら違約金は自分で払え。キャンセルしたらうちの事務所は辞めてもらう。それでいいなら好きにしろっ」
マネージャーは吐き捨てるように言うと部屋の外へ向かい思い切りドアをバンッと閉めた。
部屋に残されたほのかは鬼のような形相のまましきりに爪を噛んでいた。