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透真くん…生きて😭😭😭
駿の家の前に立った僕は、大きく息を吸い込む。今から僕は、駿の家に忍び込む。なんという馬鹿な考えだろうと、自分でも思う。
けれど、もし駿が殺した母の死体を隠しているのなら、家の中なのではと考えた。それに、彼の家に入れば、きっと僕の知らなかったことも沢山知れる。チャンスは今しかないと思った。
僕は裏庭に回り、手袋をした後、勝手口のドアをゆっくりと回した。予想通り、鍵はかかっていなかった。
実は、駿の家に来た時、何度か彼が鍵を持っていなかったことがあった。その時彼は、「勝手口のドアの鍵、壊れてるから」といって、そこから僕を家に入れてくれていたのだ。その時の僕は、危ないなぁとか、不用心だなぁとか、そんなことを考えていたのだが、ほんとうに不用心だと思う。だってこうして、僕に忍び込まれているのだから。
ゆっくりとドアを引く。きぃぃ…、と、ドアが軋む。そして、素早く家の中に入ると、そっとドアを閉めた。
ここが裏庭で、人目のつかない場所でよかった。
そう思いながら、僕は脱いだ靴を持って、 お風呂場とクローゼットに死体がないことを素早く確認する。そして次に僕が向かった先は…
1番気になっていた、駿の部屋。
遊びに来た時、2階にある自分の部屋はあまり見せたくない、と、リビングにしか案内してくれなかった、駿の部屋。
2階に上がるとすぐに、「駿の部屋」と書かれた板がかけられている扉が目に入った。
迷っている暇はない。
心の中で駿に謝りながら、僕はゆっくりと扉を開く。するとすぐに、〝なにか〟が、目の中に飛び込んできた。
「…え」
それは……ロープだった。
天井から吊るされた、ロープ。茶色く、太く、先のほうが輪っかになっていた。
それが何のために吊るされていたのか、その答えは簡単だ。
駿は、死のうとしていたのだ。
このロープで、首を吊って。
でも、一体どうして。母親を殺したから?罪から逃れるために、死のうとした?でも、駿がそんなことするわけ…
その時だった。
窓の外から、妙な視線を感じた。
冷たく、ゾクッとするような視線。
まさか、と思い、僕はおそるおそる窓の方へ視線を移した。
「ひっ」
と、情けない声が出た。
玄関に……駿が、立っていた。
じっと、こちらを見て。口角を上げて、目を細めて、冷たく微笑んでいた。その微笑みに、僕は言い表せないほどの恐怖を覚えた。
駿から目を離せないでいると、彼の口が開き、ゆっくりと動いた。
み、た、な。
次の瞬間、駿は勢いよく玄関の扉を開けた。そのままドタドタと走る音が聞こえてくる。
⎯⎯隠れなきゃ!
震える足をなんとか動かし、僕はベッドの下へ身を隠した。ほこりだらけでざらざらとした床が、とても気持ち悪かった。
勢いよく階段を駆け上がる音がして、次に瞬きをした時には、駿の細い足が目に映っていた。
「勝手口かぁ」
駿とは思えないほどねっとりとした声で、駿は喋り出す。
「いつ泥棒に入られるかとビクビクしてたけど…まさか親友に入られるとはなぁ」
笑い混じりに言ったあと、クローゼットを思い切り開ける音が響く。おそらく、僕を探しているのだろう。
「このロープも…見られたかぁ」
残念そうに言った後、今度は机の下を覗き込んだ。後ろ姿で、彼がどんな表情をしているのか、分からない。
「…あんまり俺に関わらない方がいいぞ、透真。お前まで不幸になる」
駿は低い声で言った。
そんなことない、そう言いたかった。
でも、言えなかった。見つかるのが、恐くて。黙っていることしか出来なかった。
「…下に行ったか」
駿はそう言うと、廊下の方へ向かって歩きだし、そのまま階段を降りる音が鳴り響いた。そして、下の階をドスドスと歩く音が聞こえてくる。
…今だ。
僕はベッドの下から這い出たあと、すぐさま部屋を飛び出し⎯⎯
「っ!?」
その時、なにかに躓いて、僕はドンという大きな音を立てて転んでしまった。
(くそ、なんでこんな時にいつも躓くんだ。今度は何に躓いて…)
次の瞬間、頭をがつんと殴られたような衝撃が僕を襲った。
「あ……ああぁ…」
人間の、右足。
太い足が膝の辺りで切断されている右脚が、そこにぽんと置かれていた。
「あああぁ…」
覚悟はしていたはずなのに。
僕は言葉にならない声を漏らし、後退りした。
どん、と、何かにぶつかった。
「…下に逃げる時間があるわけないんだよなぁ」
上から、呆れたような声が降ってきて、一気に背筋が凍る。
僕はガタガタと身体を震わせながら、ゆっくりと見上げた。
「…透真。俺が、怖いか?」
駿が、悲しむような表情で、僕を見下ろしていた。