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聡一朗さんの援助で、私は今日から大正学院大学に通うことになっていた。

もちろん、入学試験は受けていないので正規の学生としてではなく、働きながら学びたい社会人向けに設けられた特別コースの修学生としてだ。

年度途中の募集はやっていなかったけれど、そこは聡一朗さんがどうにか取り成してくれた。

正規の入学は今年一年受験勉強を頑張って、入学試験をパスして果たしたいと思っている。

特別コースと言っても正規の学生と同じ講義を受けられることも多く、専用のゼミにも参加できる。

なにより、図書館が利用可能なのだ!

これで気兼ねなく大学の貴重な書籍に触れることができる。

本当に聡一朗さんには感謝してもしきれない。

通学すると、まずカリキュラムと履修方法の説明を事務員さんから受けた。

「この欄に記載されている講義は特別コースの方でも受けることができるものです。今日から受けられるものもありますので、よかったらどうぞ」

「わぁ、こんなに受けられるんですね」

そこには、いろいろな講義名がずらり。

といっても私が理解できるのは少なそうだけれど……と見ていると、ふと講義者の名前に目が止まった。

すると事務員さんも、

「人気のある先生の講義もあるんですよ。特にこの先生なんて」

と、同じ名前を指さす。

聡一朗さんだった。

たしかに聡一朗さんの講義室だけ他のと違う。

一番大きな部屋のひとつだ。

「ご存じだとは思うけど、この先生は今メディアに引っ張りだこで有名なんですよ。ちゃんと講義内容に興味があって受講する学生もいるけれど、まぁ中には先生ご本人にしか興味が無い子も多くてね、いつもは抽選なんですけれど、今日はまだ空きがあるようだからぜひ」

聡一朗さんの講義って、どんな感じなんだろうな……。

英文学とは全然分野が違うし、きっと全然理解できないんだろうけど、聴いてみたいな。

と、私は聡一朗さんの講義名に丸をつけていた。

開始十五分前に講義室を訪れると、すでにたくさんの学生で部屋が一杯になっていた。

まるで劇場のような広さの講義室にびっしりと人が座っている。

これぞまさに大学のイメージという光景に圧倒された。

後ろの方が良かったけれど、空いているのは前の方しかなかった。

心なしか、前は女学生が多い。

いかにも女子大生という感じのお洒落で綺麗な子たちばかりだ。

なんだか気が引けたけれど、このままもたもたしていたら空席自体埋まってしまいそうだ。

結局、一番前の真ん中らへんに空いている席があったのでそこに座るしかなかった。

私の後ろにはスマホを開いて談笑している女学生さんたちがいた。

SNSで見るような顔もスタイルも抜群にいい子たちだ。

すでに着席している人たちの後ろを詫びながらやっと席にたどり着くと、その子たちは急に不機嫌な顔になった。

邪魔だから私たちの前に座らないでよ、と言いたげな顔で私をじろじろと見てくる。

そう思われても後ろはもう空いていないんだもんなぁ……。

気付かないふりをして座って筆記用具を鞄から出していると、クスクスと後ろから笑い声が聞こえてきた。

「バック、やばくない?」

「いくつ? だっさ」

彼女たちが笑っているのは、私がサブバックとして持っていたキルティング素材のトートバックだった。

小学生の時にお母さんが作ってくれたものだ。

ずっとクローゼットの奥に閉まっていたけれど、両親が亡くなった後に形見として再び使い始めた。

うさぎのアップリケが手縫いされたそれは、たしかに大学生が持つには違和感がある。

けど、手に馴染んでいるし、意外に使い勝手もいいから気に入ってるんだけれどなぁ……。

と少ししょんぼりしていると、聡一朗さんが入って来た。

ざわめきが一気に静まり返る中で、後ろから「やばい、今日もちょーかっこいい」と黄色い声が聞こえる。

今日の聡一朗さんの格好は、清潔感がただよう白いセーターに長い脚がよく映える濃い色のジーンズ。

いつもとは打って変わったラフなその姿は、まるで雑誌からモデルが抜け出てきたようだ。

けれども、パワーポイントを使って始まった講義内容は専門用語が並ぶとっても難しそうなものだった。

私はちんぷんかんぷんだったけれど、不思議と眠くならないのは聡一朗さんのよく通る張りのある声とパワーポイントを使った巧みな講義展開のせいだろう。

時折質問を投げかけたり、聴講者に挙手させたり、といった場面があるのもメリハリがあって飽きさせない。

聡一朗さんの講義が人気なのも解かる気がするなぁ、と私が感心していると、不意にドキっと心臓が高鳴った。

聡一朗さんと目が合ったのだ。

明らかに驚いたようで、聡一朗さんの声が、一瞬止まる。

講義に出たの、迷惑だったかな……。

と不安に思った瞬間、聡一朗さんが私を見ながら穏やかに表情をやわらげた。

もしかして、笑ってくれた?

いやいや、そんなはず……。

そうこう考えているうちに、講義が終わった。

すると、後ろの女の子たちが聡一朗さんが去った早々、

「ね、さっき絶対私たちに笑ってくれたよねー!?」

「だよね! ちょーやばかった! あんな顔してこと、普段はないんだもん!」

と後ろで大はしゃぎをしていた。

やっぱり、あの微かな表情の変化は、普段を講義を受けている人から見ても珍しいものだったらしい。

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