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「帰るか、充」

お互い部活動には入っていないので、放課後はいつも清一と一緒に帰っている。圭吾や琉成も一緒になる事があるが、今日は二人きりだ。

放課後に寄り道をするとしても、インドア派である清一はカラオケだとかゲーセンとかには行きたがらないので、ほとんどは奴の好みに合わせて互いの家とか図書館とか本屋だとかばかりになる。空腹の時にはラーメンとかファストフードなんかも食べに行ったりもするが、だいたいそんな感じだ。

「あぁ、行こうか」

鞄を持ち、清一の隣に並ぶ。一六五センチの俺では、二十センチも自分より高い清一の顔を見て話そうと思うと少し首が痛い。男子高校生にしては低いこの身長がコンプレックスでしかない俺は、コイツの隣に並ぶ度に、自尊心が痛んでしまう。昔は俺の方が大きかった時期もあったというのに、この差は何だ!牛乳か?牛乳なのか⁈運動や睡眠も大事だというが…… その点は俺だって気を付けていたっていうのに。まさか遺伝子の仕業か?だとしたら親とご先祖様達を軒並み恨みたい。

段々とムカムカし始めてきたせいか、無意識に歩く速度が速くなる。なのに、そんな俺の速度に合わせて清一は廊下を歩いてくれ、『こういう部分もモテる要素なんだろうなぁ』と少し思った。

「——なぁ…… 可愛かったか?」

「何がだ?」

「告白してきた子」

「さぁ?俺、興味無いから、そういうのよくわかんないし」

心底興味無さげな声が返ってきた。あまりしたくない話なんだと、声色だけでありありとわかる。


「…… つき、あうのか?」


ボソッと俺が呟くと清一の足が止まった。振り返り、「清一?どうしたんだ?」と問いかける。

「気になるのか?」

「まぁ…… そりゃあ」

「気になるのは、何でだ?」


「だってさ、鍛え始めた途端に、お前ばっかモテてズルイだろ!」


「別に俺はそんな事どうでもいい。お前との約束を守ってるだけだし」

「モテたくて筋トレしてたんじゃねぇの?」

「んな訳あるか。お前が言い出したからに決まってるだろ?『やめろ』とは言われていないから今も続けているだけだ」

清一の眉間にシワがより、不快そうに顔を歪める。


「俺は…… お前と居る方が楽しいから、無駄に焦って、好きでもない相手と付き合う気はない」


「そうなのか?」

「あぁ」

短い一言だったが、力強く言い切りながら清一が頷いた。

「そうか…… へへへ」

理由もわからぬまま、何でかちょっと嬉しくなる。多分アレだな。コイツが誰とも付き合う気がないのなら、俺にもチャンスがあるかもってやつだ、うん。


「今日は、ウチに来ないか?」


清一の提案に、俺はパッと顔が明るくなった。

「いいな!この間のゲームの続きもしたいし」

「いや待て。この流れでやるなら、筋トレだろ?」

「うっ!」

「ほら、行くぞ。キッチリ仕込んでやるからな」

「明日からでも…… よくね?俺、ゲームの続きを…… 」

「モテたいんだろ?」

「モテたいっす!」

間髪入れずに挙手して答えると、清一が声を出して笑ってくれた。無愛想な奴の笑い顔って、マジ破壊力あるわー。んな無防備な姿が見られる幼馴染って立場は、やっぱ役得だよな。

ニマニマと笑いながら俺が清一の顔を見ていると、笑い過ぎたせいでちょっと涙目になりながら、奴が不思議そうな顔を俺に向けてくる。

「どうかしたのか?」

清一の問いに、俺は「いいや、何でもないよ」と笑顔のまま首を横に振った。




清一の家は俺の住むアパートのすぐ隣にある大きな一軒家だ。同い歳の子供が居る家同士、お隣さんだからとそれこそ俺達は生まれた頃から一緒にいる。互いに忙しい両親を持っているせいもあってか、どちらかの家に二人きりで留守番をする事も多かった。

「一旦着替えてからそっち行くわ」

アパートの敷地前に立ち止まり、清一に声をかけた。

「わかった。ジャージとか動きやすい格好で来いよ」

俺に向かって指を差し、清一が念を押す。なあなあにしようと考えていると思われていたみたいだ。

「大丈夫だって、その為に家寄ってこうと思ったんだしさ。制服のままじゃ動きにくいだろう?」

紺色の学ランの襟元をトンッと叩いて見せると、「そうだな。悪い」と清一が謝てくれる。

「いいって。俺から言い出したクセに、今までほとんどやってこなかったんだし。清一が疑うのも納得出来るからな」

「週一ではやってたろ」

「それだってさ、お前が引っ張ってってくれて、やっとだったろう?」

「まぁ、そうだな」


「今回こそはその状況を改善するぞ!俺の本気ってやつを、清一にも見せてやる」


胸を張って、バンッと叩く。鼻息荒く俺が『ドヤッ!』って顔をしていると「どうせなら、やってからその顔しろよ」って言いながら、清一がにこやかに笑ってくれた。

「んじゃ着替えるわ。なんかウチから持って来て欲しい物とかあるか?」

清一が口元に手をあてて、ちょっと考えるような仕草をする。

「下着…… かな」

「下着?何で?」

「いいから持って来い。後悔するぞ」

筋トレで『下着を持って来い』とか意味がわからん。でも真面目な顔で『後悔するぞ』とか言われると、なんかマジでそんな気がしてきた。

「…… わかった」


(汗をかくからとかなのかな。なら、タオルや、着替えの服も一式持ってくか)


一人納得して頷くと、それぞれの方向に歩き出す。家の方へ向かって行く清一をチラッと振り返ると、奴はちょっとソワソワした様子だった。

アイツだけがモテるなんて許せない

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