🌙 シーン1:夜明けの影
朝焼けが塔の外壁を照らす頃。
《碧のごはん処(ミドリ)》の暖簾がふわりと揺れた。
入ってきたのは、長い黒髪を後ろで束ねた青年――アセイ。
青と白の設計スーツの裾はほこりでくすみ、目の下には深いクマ。
端末を片手に、無言でカウンターへ腰を下ろした。
「……はぁ」
「また徹夜やな?」
厨房からタエコが顔を出し、苦笑い。
「メシ、まだ食べてへんやろ。うちの“まかない丼”いっとき」
🍚 シーン2:まかない丼、設計記録
タエコは端末に手を置く。
《FRACTAL_COOK_MODE=RAPID_RECOVERY》《SYMBOL=DESIGN_TRACE》
炊きたての碧素米に、余った焼き碧菜、スモークフラクタル肉、
香りを立てる記憶スパイスがバランスよくのせられていく。
湯気の立ち昇る丼がカウンターに置かれた瞬間――アセイの端末が勝手に反応した。
「……フラクタル設計ログ、更新? 何も入力していないのに……」
すずかAIの穏やかな声が補足する。
「栄養と共鳴が脳内の設計アルゴリズムと接続。まかない丼由来のインスピレーションです」
🥢 シーン3:一口のアイデア
アセイは無言で一口食べる。
舌に触れた瞬間、パズルのようにばらばらだった設計案が脳内でつながっていく。
「……この食感、この余白……そうか、あそこに“吸収式の柱”を入れれば」
タエコは笑って、丼をもうひとつよそった。
「せやろ。あんた、ちゃんと食ってると、ええアイデア湧くやろ?」
アセイは静かに笑った。
「……まかない、恐るべしだな」
設計士に必要なのは、ひらめきと、丼と、ちょっとの休憩時間。
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