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「えー?目玉焼きぃ?」
一番遅く起きてきた紫音が腫れぼったい目でそういうのを、晴子は横目で睨んだ。
「私、卵焼きが好きなのにぃ」
形の悪い唇を尖らせて見せる。
「あら、不満があるなら食べていただかなくて結構よ。私が若いころなんて、20歳を過ぎたら自分でご飯くらい準備してました」
「……何十年前の話してんの?」
紫音が上を向いた鼻で笑う。
ちっともかわいくない。
否。
美しくない。
目は小さく小鼻が広がっている。
上唇は厚くて下唇にはボリュームがない。
顔が大きくて、おしりも大きい。
そのくせ胸は小さくて、足は短い。
この顔と体のどこに自分の遺伝子が流れているのかわからない。
確かに自分のヴァギナから産み出したはずなのに、他人の子供のように、塵ほどの愛情も感じない。
「25年前かな。俺が生まれた頃だろうから」
紫音が出かけるまでゆっくり眠っていればいいものの、輝馬が起きてきた。
「お兄ちゃん!!」
耳障りな甲高い声がダイニングに反響する。
「何!?いつ帰ってきたの?」
紫音が輝馬の腕に絡みつく。
(……汚い手で触らないでよ!!私の大事な輝馬に……!)
危うく叫び出しそうになるのを必死でこらえる。
箸を持つ手に力が入る。
「昨日の夜中だよ。飲み会が近くであったから、泊まらせてもらったんだ」
「……………」
視線を感じて顔を上げる。
正面に座った次男の凌空が、晴子の手の中で軋んでいる箸をじっと見下ろしていた。