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・登場人物は全てオリジナルのキャラクターです(一次創作)
・BL要素を含みますが、やらしい描写は無いです(多分)
・設定などがぶっ飛んでいることがあると思いますが、お見逃しください()
それでもいいという人は、どうぞ↓↓↓
「大斐がいなくなった日から、警備ロボットの数が増えたんだ」
そう言って、ダクラが心配そうに俺を見る。「多分気付かれたんだと思う。さっき大斐が駆けつけてきた時も、見つからないかって心配だったんだ」「まぁでも、今にサイレンの音が聞こえてくるよ」「え…?何で…?」「大方、俺は指名手配でもされてるんだろう。なら、さっきエレベーターに乗った時に通報されてて当然だ」「じゃあ、何で分かってたのにここに…!」「そりゃあ、お前に会いたかったからな」「ち、違うだろ、お前は俺の手を借りにここに来たんだ」「いやまぁそれもあるけどさぁ、9割はお前に会うためだよ。で、俺は無事だってことを伝えたかっただけ」わざわざそんな、と言うダクラの声をかき消すように、遠くの方からサイレンの音が聞こえてきた。
タイムリミットだな。
「じゃあ、あとは俺一人でなんとかすっから」「そんな、無茶だ!やっぱり俺っ、」「いーいー。お前は普段通り、毎日を過ごすんだ、いいな」「そんなこと出来るわけ、」「色々進展あったらここに戻ってくるから。ちゃんと作戦は立ててきたし」「だが…、」「俺の言うこと、信じてくれねぇの?」この聞き方はズルい。自分でも思う。だけど今こいつをコントロールするにはこれしか思いつかなかった。俺を助けようと無茶して捕まったりなんかしたら、元も子もない。ダクラは今にも泣きそうだった。「本当に捕まらないか?」「大丈夫ー、俺1回逃げ切ったことあんだから」「本当に、戻ってこいよ」「分かったよ」くしゃ、と髪を撫でてやる。これをするのもしばらくお預けだな。「いい子で待ってるんだぞ」「…うん、俺ずっと待ってる」愛おしいこいつを抱きしめる。そして、背を向けてドアをくぐり抜けた。
来た時にチラッと見えた非常階段へ一目散に走る。そして1階を目指して駆け下りる。遠くの方で例のサイレンが鳴り響いている。迫り来る政府当局が先にここにたどり着くか、俺が先に1階に着くか。
数分間、少しもスピードを落とさずに階段を降り続け、ついに1階にたどり着いた。サイレンの音はまだ遠い。俺はドアをくぐり抜け、サイレンが聞こえる方とは逆方向に走った。
「はっ、は、」
息が切れる。
がむしゃらに走り続け、団地の端っこに着いた。そこには10mは超えてるであろう大きな壁が立っていた。最初に団地に着いた時、端にそびえ立っていた壁が妙に気になっていた。あの壁は、この向こう側にある‘何か’とこの団地を区切っているのではないかと推測した。だから、逃げる時はここに来ようと計画を立てていた。ただ、迫り来るサイレンの音と、目の前の巨大な壁が恐怖を更に増幅させる。ここに来ても何もなかったら、なんてことを考えられるほど、俺には選択肢がなかった。もし仮に街の方へ逃げたとして、街の構造が全く分からない俺がただ不利になって、政府当局のロボットに拘束されるのが安易に予想できたからだ。俺は壁に沿って、ただ走り続けた。
視界がボヤけてきて、流石に一息つこうと足を止めた。頬を伝った汗が地面に落ちる。不意に右を見ると、壁にギリギリ1人通れるくらいの穴が空いていた。
アタリ、だな。
俺はニヤリと笑った。
俺は地面を這って、その穴を通ろうとした。本当にギリギリだったけど、なんとか体を滑り込ませることが出来た。俺は壁の反対側に逃げることが出来たんだ。…まぁ、ここが安全とは限らないけど。
サイレンの音が近づいてくる。俺はまた立ち上がって、さらに遠くへと走った。こちら側は真っ暗で、月明かりだけが頼りだった。そしてここは、先程の街の風景とはかき離れていた。大きな建物はなく、ボロボロになって壊れた建物がたくさんあった。到底、The・SFという街並みではなかった。スラム街、という言葉が一番近い気がする。
不意に手を掴まれて、声を上げる暇もなく建物の中に引っ張られた。口を手で押さえられて、両手は拘束されて動かせない。抵抗する体力もなくて、体の力を抜いた。
「お前が、なぜここにいる」
耳元で男の声がした。俺はこれを聞いて、バッと後ろを振り返った。突然の問いに驚いたんじゃない。よく知ってる声だったから驚いたんだ。「あにひ!」「あ?」手が退けられる。「兄貴じゃん!」「…兄貴…?」「あー、もしかしてパラレルワールドの兄貴の方ー?そりゃそっかぁー、俺の兄貴がここにいるわけないもんなぁ」脳に酸素が足りてないもんで、フワフワした喋り方になる。「な、何を言って、」「ちょっと待って、予想させて?んー…。あっ!分かったぞ!政府に対する反乱を起こそうとしてる裏組織の指導者的な感じなんじゃね?!」
ビクッと兄貴の肩が震える。やっぱ図星かぁ。「俺は指導者じゃ…いや、そんなことはいい!とにかく、俺の問いに答えろ」「えー、俺が何者かってー?うーん、じゃあとりあえず背中のシャツ捲ってくんね?」「はぁ?」「いぃからー」渋々、兄貴が俺の服に手を伸ばす。そんで、バッと捲ると兄貴が、「え」と声を漏らしたのが聞こえた。「俺は施設出身じゃありませーん」「そ、そんなことが有り得るのか…?!」「いやぁ、有り得ないんじゃね?」「な、ならお前はどうやって…」「違う世界線から来ましたー」「はぁ…?」
俺は、必要最低限のことしか話さなかった。ダクラのことや現実世界のことは話さず、俺がここの世界の人間ではないことだけを話した。全てを話してる暇はない。
「とにかく、俺はこの世界の人間じゃない。あと、さっきから鳴ってるサイレンで分かってると思うけど、俺政府当局から狙われてるわけよ。んだから、兄貴に匿って欲しいなぁって」「ま、まってくれ…、違う世界から来たって…」「詳しいことは今は話せねーけどぉ」
拘束されてた腕が解放された。「…驚いた。俺はてっきり、お前はオオヒなんだとばかり…」今度は俺がびっくりする番だった。え、今兄貴、俺のことオオヒって言った?「今なんて?」「い、いや…お前のことをオオヒという人と勘違いして」…まじか。
「ま、ちょ、一旦落ち着こうぜ」「お前が落ち着けよ…」兄貴のツッコミも健在。え、ツッコミっていう概念この世界にあんの?並大抵のことがない限り他人と話さないって、ダクラ言ってなかった?んん?「…あのな?確かに俺の名前は大斐なんよ」「えっ」「珍しい名前だし、同名ってのは考えらんねぇし…。あ、そーだ、兄貴ってさ」「…その、兄貴って言うの、止めてくれないか…。俺にはちゃんと名前があって」「知ってるよー、斐甍っしょ?」面食らったような顔。おもしれー。「俺がいた世界では、俺らは兄弟だったんよ」「…兄弟…?」「あそっか、そういう概念ないんだった」
次から次へと話題が出て一向に本題に辿り着かない。まぁ俺のせいなんだけど…。「おけ、分かった」「何が分かったんだ」「とりあえず、2つ質問に答えてくんね。兄貴に拒否権なしな?…兄貴の言うオオヒって、誰?」はぁ…、と息をつく兄貴。そして、少し控えめに声を出した。
「この世界の指導者だ」
「…このせかいのしどーしゃ…?」
情けない俺の声が、暗い空の下で響いた。