奈美から送られてきた二枚の写真を、奏は開いてみる。
「……え? これ…………私?」
一枚目は、ただ楽器を持って並んで撮った写真。
奏は、穏やかな笑みを湛え、怜が彼女に寄り添っていた。
(いやいや、この笑顔は、葉山さんに楽器をオーバーホールしてもらって、嬉しいからだよ、きっと……)
二枚目は、怜がシャッターを切る直前に、奏の肩に手を添えた写真だ。
(どんな顔してるんだろ……)
スマホの画面を、おずおずとスクロールさせていく奏。
「……!!」
怜は更に奏に近付き、彼女も心なしか怜に寄り添っている。
柔らかな表情で微笑む奏に、そっと手を添えて嬉しそうに笑う怜の姿。
側から見たら、仲睦まじい恋人同士のような写真。
筋張った大きな手が、まるで奏を離さないと言っているように見え、奏は頬を紅潮させてスマホの画面を眺めていた。
(私、こんな表情をするのか……)
羞恥心を感じながらも、奏は怜のIDを開き、画像を二枚添付して送信ボタンをタップした。
「やっぱり君は…………笑ってる顔が一番いい」
頭上に落ちてきた低い声音に、奏は顔を上げると、真面目な表情で彼女を見下ろしている。
「その笑顔……俺にもっと…………見せて欲しい。いや、俺だけに…………見せて欲しい」
「……え?」
まるで告白のような言葉に、奏の心が掻き乱される。
普段の彼女だったら、『変な冗談やめて下さい!』と言っている事だろう。
だが、真剣な面差しで言ってくる怜に、奏の鼓動がドクドクと加速している。
彼の言葉をはぐらかしてはいけない。
そんな雰囲気すら感じられた。
時が凪いだように、二人は無言のまま視線を絡ませる。
何事もないように通り過ぎていく時間がもどかしい。
「奏さん、俺……」
怜が奏に何かを言いかけた瞬間、そこへ親友夫妻の言葉が、場の空気を変えるように遠くから飛んできた。
「怜、音羽さん。昼メシまだだし、そろそろ食いに行こうぜ」
「ここから少し離れた所に、美味しいイタリアンのお店があるの。行こうよ!」
豪と奈美の言葉に、怜は苦笑を映し出す。
「あとちょっとだったのに、残念だな……」
誰に言うわけでもなく、怜がポツリと独りごちた。
どこか切なそうな、憂いを帯びたような、複雑な表情を覗かせている彼に、またも奏の心臓が大きく跳ねた。
「葉山さん……どうしたんですか?」
「いや、何でもない」
怜が引き締めていた唇を緩め、奏に微笑みかける。
「豪たちの所に行くか」
「そうですね」
怜が先を歩き、その少し後ろを奏がついていく。
その時、突然奏の左手が大きな温もりに包まれた。
視線をやると、怜が彼女の手を繋いでいる。
「え……?」
「いいから行くぞ?」
前に視線を送ったまま、柔らかな声音で言いながら奏の手を取ったまま歩みを進める怜。
無骨な手からじんわりと放たれる心地いい温もりを、奏はなぜか振り払う事ができなかった。