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「はっ!? マジ? じゃあ、やっぱ千尋のおススメはお肌艶々効果のある、濃厚セックス? 身体から攻略するってか?」
大和さんはもはや、エロおやじと化している。
麻衣が、軽蔑の眼差しを向けている。もちろん、大和さんは気づいていない。
さなえが一緒なら絶対に言わないのだが、今日は完全にハメを外している。
「だってよ、龍也! とりあえず、訴えられない程度に押し倒せ」
「あーーー……、それはナシで。俺としては、なんなら一生レスでもいーから一緒に居てくれって土下座でもしたい気分れす」
「つまり、ヤッちゃってるってことだ」
「セックスはさせんのに、恋人にはならないって? セフレの関係が楽だって奴も多いみたいだけど、そんな感じ?」
聞いていると、私はどこまでも悪女。大和さんと陸さんにしてみれば、真面目で一途な後輩の身体を弄ぶだけで恋人にはならないと言い張る、奔放な淫乱。
さすがに千尋も苦笑いしている。
「違います! 本気の恋愛に臆病なだけです。悪女《わる》ぶってるけど、本当は俺以上に一途で、優しいんです!」
胸が、苦しい。
嬉しくて、苦しい。
「龍也にそこまで想われるなんて、幸せだねぇ」と、麻衣が微笑んだ。
目には、涙。
麻衣は時々、泣き上戸になる。
「素直になって、龍也を受け入れてくれるといいね。龍也なら、絶対大事にしてくれるんだから」
「麻衣ひゃん……」
感極まって、龍也まで涙目。
もう、本気でいたたまれない。
梅酒を何杯飲んでも、酔える気がしない。
気を紛らすために、冷めかけた料理を次々と口に運ぶ。
タコのカルパッチョが、美味しい。
それを伝えようと顔を上げると、意味ありげに微笑む千尋と目が合った。
嫌な、予感。
「龍也、地球滅亡の瞬間、誰と一緒に居たい?」
「あきら!」
部屋が、静まり返る。
大和さんに陸さん、麻衣が、聞き間違いかと目をパチクリさせる。
千尋だけが、してやったりといったドヤ顔。
龍也がそんな顔をしているのか、確かめる勇気は、もちろんない。
「え――、龍也が好きなのって――」
「あきら」
その声は、力強く、迷いもなくて、酔った弾みには聞こえない。
お願い、それ以上――。
私の願いは虚しく散った。
「俺、あきらが好きなんです」
呼吸を忘れていた。
みんなの反応が、怖い。
絶対、言われる――。
「マジで!? お前ら、いつの間にデキてたんだよ! つーか、龍也。まさか大学ん時から好きだったとか言わないよな」
「大学ん時も! 好きだったんです。けど、あきらには恋人がいたから諦めたんですよ。ま、今はもう、諦めるのも諦めましたけど」
「どういう意味だよ?」
「諦めるなんて無理だってわかったんで。もう、死ぬまであきら口説いてようと思って」
ハッとして、ようやく呼吸が戻った。
テーブルの下で、龍也の手が私に触れた。偶然じゃなく、故意に。なぜなら、迷いなく、ギュッと握られたから。
『もう、逃げるな』
そう言われているようだった。
龍也の手が、熱く汗ばんで、小さく震えているのは、きっとお酒のせい。
私が手を離そうと引いた時、グイッと持ち上げられた。顔の高さまで。
もちろん、手を繋いでいるのがみんなに見えた。
正確には、掴まれていた、だけど。
「あきら、早く諦めて結婚して」
驚きのあまり、龍也と目を合わせてしまった。
「俺は絶対諦めないから、あきらが諦めろ」
ゾッとした。
ゾクッとした。
グッときた。
幸せになって欲しくて別れたのに……。
龍也が、こんな行動に出るとは思わなかった。
こんな、私の逃げ道を断つようなこと――。
結局、私は龍也の想いを見縊っていた。
龍也の優しさに甘えていた。
どうしよう。
龍也の『本気』を悦ぶ自分が、死ぬほど嫌だ。
「龍也がそこまで本気とはなぁ」と、大和さんが感慨深そうにビールを飲む。
「つーか、あきらは? 龍也のことどう思ってんだよ?」と、陸さん。
「好きでもない男とヤルような女じゃないだろ? お前」
そうよ。
この場で、遊びだった、って言ってしまえば――。
みんなに軽蔑される。けれど、確実に龍也を拒絶できる。
そう思ったのに、上手く口が開かない。
言葉が喉につかえて、音にならない。
「そんなこと――」
「当たり前じゃないですか!」と、千尋の言葉を遮って、龍也が言った。
「あきらはそんな女じゃないですよ。けど、素直じゃないからなかなか認めてくんないだけです」
「そんな、難しいことか?」
「それは――」
「そりゃ、そうよ。仲間内でデキちゃって、ダメんなったら、気まずくて堪んないじゃない」
龍也と千尋に庇われて、情けない。
「それに、龍也の気持ちがこんだけ本気で、しかも結婚まで考えてるなら、悩まないはずないじゃない」
「えっ!? それって俺が重いってこと?」
「いや、重いってより重すぎだろ。死ぬまで、とか」と、大和さん。
「じゃあ、結婚してくんなきゃ死んでやる、とか?」
「あーーー……。あきら、じっくり考えろ?」と、陸さん。
「うん、その方がいいよ。龍也がいい奴なのはわかってるけど、さすがに怖いわ」
麻衣に覗き込まれて目が合った。穏やかな微笑みに、ホッとする。
「それに、恋愛と結婚は違うからね」
「そうだな。それで失敗した例がここにいるし、じっくり考えろ。週末に会うだけなら、お互いに格好つけていられても、一緒に暮らすとなるとそうはいかないからな」
陸さんの言葉に、部屋の空気が冷える。酔いも醒めそうだ。
内容が内容だけに、流しずらい。
「経験者の言葉、重すぎるよー」と、麻衣がちょっとおどけて言った。
「ありがたいだろ?」と、陸さんがケラケラと笑う。
「ありがたくないよ!」
「そうよ。あきらが益々尻込みしたら、陸のせいだかんね」
「知るかよ! つーか、千尋と麻衣はどうなんだよ! いくらイギリスに行く前に結婚しろとは言っても、三人立て続けはきついぞ」
「確かに! うちは子供も増えるし、ご祝儀貧乏とかなりたくないぞ」と、大和さん。
「ああ。私はないない! ってか、そろそろ別れるし」と、千尋がブンブンと手を振って言った。
「はあっ!? なんで? お肌艶々効果がキレたか?」
「なんでよ! 私は前からお肌艶々です!!」
「じゃあ、なんでだよ?」
「もともとそんな真剣な付き合いじゃなかったのよ。私はあきらと違って、『いい男だなー』ってくらいの気持ちでヤレちゃう女なんで」