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いつか殺し合う君と紡ぐ恋物語

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いつか殺し合う君と紡ぐ恋物語

86 - 【イベントストーリー】初めてのクリスマスイベント・後編[リアン×焔]

2025年06月02日

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一日目のイベント参加が終了し、珍しくげっそりした表情をした焔がベッドの上に寝転がっている。リアンは側の椅子に座っていて、一緒にベッドでは休んでいない。もしそんな事をしようものなら、疲れなんぞ何するものぞと精液の摂取魔力の回復をしたくなってしまって休ませてあげるどころの話では無くなってしまうからだろう。


「——お疲れ様でした。初めてのクリスマスイベントへの参加はいかがでしたか?」

「何なんだ、この世界は、本当に。巨大な七面鳥と戦闘になるとか、世界観がもうめちゃくちゃじゃないか」


戦闘の指示をリアンに出しつつ、焔自身もローブ姿のまま最前線で殴りかかり、流石に今日は魔力も体力も使い過ぎたみたいだ。ソフィアは常に焔の側に居て魔導書としての役割を果たしてはいたのだが、その間楽しそうに笑っていて、笑い過ぎて疲れ果てた様で、今は別の部屋で安静にしている為ここに彼の姿はなかった。


「本来は集団戦で倒す相手ですからね、それを二人だけでやれば苦戦しても当然です」


街からは遠い事もあり、周辺の木々よりも大きな七面鳥が一匹、この森には出現した。その場合本来はクラフト系のスキルを使って巨大な罠を事前に作っておき、少人数で敵を釣って罠まで追い込んで身動きを奪い、そして周囲から大人数でフルボッコにするのが王道の相手なのだが、今回は真っ当な方法を使って真正面から撃退してきた。

戦力になる人数が二人と少なく、かつ七面鳥の体力がえげつなかったせいでこの二人であっても時間がかかり、その結果、四十分ほど彼らは動きっぱなしとなる羽目に。このままでは回復アイテムやスタミナ、本人の集中力が最後まで保つのかどうかという瀬戸際の戦闘となったのだが、それは二人共どこまで本気を出しても問題無いかを伺いつつの戦いだったせいでそうなったといった感じだ。


この二人は、(この時期はまだリアンしかそうであると認識していないが)魔王と鬼の組み合わせである。


ガチの本気で挑んでいたら即座に瞬殺してしまい、もしかしたらどちらもイベントを楽しめない展開となっていたかもしれない。お互いにバレぬ様に手を抜きつつ、でも戦っていて面白いと思えるくらいの加減で戦うのは案外難しいが、縛りプレイみたいで楽しくもあった。


「しっかし……奴が暴れる理由も最後までわからんかったし、焦点の合っていない瞳で『グゲーッ』と大きな叫声をあげながら走ってくる七面鳥と戦うだなんて思ってもいなかったぞ」


『現地に行けば色々わかるから』と、事前に何も聞かされぬまま出かけて行った為、初見で七面鳥の巨体を見た瞬間、焔とソフィアは呆気に取られてしまっていた。 『ありゃなんだ?』というのが、焔の正直な感想だ。 七面鳥という鳥自体彼にとっては見慣れたものでも無いし、目の焦点が合っていないせいで気狂いじみた空気感になっているしで、そう思うのも当然だ。


「あの子はですね、『サンタクロースの下は職場環境が劣悪だから』と、改善を訴えて抗議活動を始めたトナカイ側が送り込んできた刺客なのです」


トナカイ達が悲鳴をあげるとか、とんだブラックサンタがこの世界にはいたものだ。しかもあんな者をトナカイが送れるとか、彼らの味方には何がついているというのか。

「じゃあ、サンタ側からも、何かトナカイの味方側に刺客を送ったりしているのか?」

「サンタ側の味方は、我々魔ぉ……召喚魔などの様な魔族達となります。ですがそのまま我々が襲撃をかけるのはいつもと同じでつまらないので、トナカイ側の勢力があの七面鳥などを嗾けてくるように、こちらからは“巨大アイシングクッキー部隊”を送り出しているのですよ」

つい気が緩み、また自分から身バレに繋がる発言をしそうになった。

最初はそれで殺されても未練も無し。まぁいいかと思っていたリアンだったが、今は絶対に嫌だ。もっと彼らと一緒に居たいし、焔とは深く触れ合っていたいので、今回も他の話をし続けて必死に誤魔化す。

「ちなみにトナカイ側の味方は人間達です。元々魔族一同と敵対しているので、当然といえば当然な流れですよね」

「トナカイの味方は人間共か。それにしても、サンタは良い子の味方だろうに、魔族達が味方とはなぁ」

「何を仰いますか。竜人や獣人達は正直千差万別ですが、少なくとも魔物達は皆良い子ばかりですよ。勤勉で物分かりがよく、素直な者ばかりで、人間達よりもずっと純粋な魂の持ち主ばかりです」

「ほぉ、自分も魔族の一員だろうに随分と持ち上げるのだな」

「……そ、そう言われると自画自賛したみたいで少々恥ずかしいですね。でも本当の事ですので」

自分が良い子かどうかを問われたら、『否!』としか言えないが、部下達は揃いも揃ってそういう者達ばかりなので素直に褒めておく。そういえば、キーラ達幹部の三人も、素直とは言い難い事を思い出したが、それにはそっと蓋をしておく事にした。


「しかし、クリスマスイベントの背景が春闘だとはなぁ……めちゃくちゃな世界だな、本当に」

ソリを引くトナカイ達の一団を労働組合と一緒にしていいのかは何とも言えぬ所ではあるが、焔には似たようなものと感じられ、そう例えを出してみた様だ。

「まぁまぁ。トナカイが居て、サンタが絡んでいればもうクリスマスイベントって事でいいのですよ」

「発想が緩いなぁ……まぁ嫌いじゃないが。しかし、人間共が主に戦う相手はアイシングクッキーか。食ったら美味いのか?」

「さぁ、流石に『食べた』という話は聞かないので」

「それにしても、あっちは食い物と戦うとか、難易度に差があり過ぎないか?」

「勇者御一行でもあちらに居ればそうでしょうが、彼らには未だに主要戦力が魔物達程には充実していませんからね。あまり難易度の高い相手を嗾けても、戦力差でこちらが有利になってしまう為、仕方ない処置なのですよ」

「なるほどな」

「ちなみに、倒した数や敵の強さに応じてポイントが自動的に集計され、結果的にどちらが勝利するかでこの先一年間のトナカイ達の優遇が改善されるか否かが決まるのですが、ぶっちゃけそんな事よりも『今年のクリア報酬の衣装が可愛いから戦う』とか『死を覚悟しないで済む戦闘行為が楽しい』なんて理由での参加者の方が圧倒的に多いみたいですよ」

「ゲームのイベントなんてそんなものか」

「えぇ、その通りです。トナカイがどうなろうが私達には無関係ですしね」

「あー……うん。その通りなんだが、随分とはっきり言い切ったな。ここに今トナカイが居たら、泣き出す台詞だぞ?」

「居たら言っていな……いえ、言ってるかもしれませんね。ははは」

笑っているリアンを見ているうちに、ふと焔は、今朝彼が言っていたサンタ服の存在を思い出した。

「——そういえば、リアン」

「何ですか?焔様」


「今朝、俺用のがあると話していたサンタ服は一体どんな感じの物なんだ?」


焔がそう言った途端、リアンの口元が少し綻んだが、すぐにそれを両手で覆って則座に隠す。まだもうちょっと自分が何を企んでいるのか気が付かれてはいけない。

「今お持ちしますね」と言って、リアンはクローゼにしまっているサンタ服を取りに椅子から立ち上がった。扉を開け、ハンガーを掴んで衣装を手に取ると、それを焔の元へ持って行く。


「お待たせしました。こちらになります」

「待っていたわけではないし、着たいわけでも無いから出さなくても良かったんだけどな?」

体を起こし、ベッドの上で足を崩しながら座る焔が今更な事を言った。

「まぁまぁそう言わずに。こちらになりますので、着てみましょう!」

着てみませんか?では無く、強制の様だ。

「まぁ……別に構わないが、何か裏がありそうだな」

「そんな事はありませんよ」

たまに見せる不自然な程に眩しい笑顔をリアンがする。でも、今は嘘を嗅ぎ取れないせいで、リアンには裏がないと信じる事しか焔には出来なかった。

「じゃあ、着てみるか」

「はい!何だったらお手伝い——」と言ったリアンの言葉を「不要だ」の一言で一蹴する。『自分が着せたからには、脱がす権利もあるはずだ』と言い出すに違いないと、今までの流れでもう学んでいた。


着替えを終え、自分の姿に違和感しか抱けない焔が渋い顔をしている。目隠しをしていようがそうとわかる程に眉も口元も曲がった状態だ。

「……俺用と言っていなかったか?」

「はい、コレは焔様用ですよ」

ニコニコと笑うリアンの頰は高揚で赤く染まり、両手は顔の前で祈るみたいに組んでいる。瞳にはハートマークを描いていて、テンションは先程から上がりっぱなしだ。


「今年の無料配布で送られてきたサンタコスチュームを、私が改造した、焔様専用の衣装ですからね」


その言葉を聞いた瞬間、『やられた』の一言が焔の頭の中を占有した。

頭にはサンタ帽子ではなく、外側は赤、内側は白い猫耳をつけていて、サンタ服らしき物は着物ベースのデザインながらも膝上までと丈が短い。着物の帯は前側でリボンの様に結んであり、まるで花魁のような雰囲気だ。細い脚には白いニーソックスを穿き、下駄は紅くて小さな柊の飾りが端の方についていた。

「……着替えている時点から何かおかしいとは思っていたが、まさかこうくるとは」

額に手を当て、焔が深い溜め息を吐く。 変だ変だと思いつつもきちんと一式着てくれるあたり、『鬼の格好をしているくせに、お人好しもここまでくると、こっちが心配になってくるな』とリアンは思う。


でも確信はあった。

『なんだかよくわからないな』と考えながらも、コイツなら着てくれると。


「和風のサンタなのか、猫なのか……どっちかに絞れなかったのか」

「え、でも、猫に絞ったら着てくれませんよね?これでも、猫要素は耳だけにと、妥協に妥協を重ねたのですよ?」


(猫尻尾付きのアナルプラグを本当は一番に入れて欲しかったんだが、そこまでは黙っておこう。うん)


「着るわけがないな」

お互いに顔を見合わせて『だよね』と言いたげに頷いた。

「……怒りました?」

「普段なら、な」

「——じゃ、じゃあ!」

「今がクリスマスシーズンじゃなかったら、殴っていた」

ということは、今回は殴らないで済ませてくれるということだ。

「焔様っ!」

本当にコイツはちょろいな!と心の中では思いつつ、でもかなり嬉しい。

喜びのまま名前を叫び、ぎゅっと焔の小さな体をリアンが抱きしめる。そして、「では!」と言いつつベッドに押し倒すと、上から即座に覆い被さり、リアンは焔の目隠しをした顔を見下ろしながらぺろっと舌なめずりをした。


「さて、それでは——そろそろ今夜も、魔力の回復を致しましょうか」


興奮気味なリアンに言われ、焔は『今夜はいつも以上にゆっくり眠るのは無理そうだな……』と思った。

——ちなみに、リアルでよっぽど悲惨な思い出でもあるのか、五朗はこのクリスマスイベント期間中ずっと、酒樽抱えて『リア充死ねっ』と言いながら部屋にずっと引き篭もっていたのだが、見事に二人と一冊から気にも掛けて貰えなかった事で一層この時期が嫌いになったのだった。



【初めてのクリスマスイベント・後編[リアン×焔]完結】

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