美月の前に車を停めた海斗は、手を伸ばして助手席のドアを開けた。
「お待たせ」
「ありがとう」
美月はとびっきりの笑顔を見せる。その笑顔を見ただけで海斗の疲れは吹き飛んだ。
「今日のライブどうだった?」
シートベルをとしている美月に向かって海斗が聞く
「凄く感動しました。一言では言い表せないくらい。曲は素晴らしいし海斗さんもカッコ良くてとにかく全てが素敵で感動したわ」
「そんなに褒めちぎって俺をどうするつもり?」
海斗がふざけて言ったので美月は真面目な顔をして付け足した。
「新曲凄かった。『earthshine』という曲名に相応しく壮大な宇宙が表現されていてすごく素晴らしいって思ったわ。あの曲は音楽好きの人だけじゃなく天文業界の人達にも絶対人気が出ると思うわ」
美月は興奮して続ける。
「浩さんと亜矢子も素晴らしいって言ってた。亜矢子なんて感動のあまり泣いてたわ。浩さんもバンドの新境地が拓けたねって言ってた。あ、そういえば浩さんがチケットありがとうって伝えて下さいって」
「そっか。二人とは今日会えなくて残念だけれどまた今度うちに呼んで飲み会しようか?」
海斗の言葉に美月は嬉しそうに頷く。
「さて、ではそろそろシンデレラをお城にお連れいたしますか」
海斗はアクセルを踏み込んで車をスタートさせた。
車はすぐに中央道の方へと向かう。
「泊まるのは山中湖じゃないの?」
「この辺りはフェスで人が多いから八ヶ岳の方にホテルを取ったよ」
「八ヶ岳? うわぁ嬉しい。標高が高いからきっと晴れたら星が綺麗よ。それに今は新月だし。あーん、カメラ持って来れば良かったー」
美月は心から残念そうに言う。
「そう思って君のカメラを積んでおいたよ」
「キャーッ、ありがとう!」
美月が嬉しさのあまり大声で叫んだので海斗は声を出して笑った。
海斗は美月に星空を見せたくて八ヶ岳のホテルを選んだ。もし晴れれば撮影もさせてあげたいと思っていた。
この様子だと今夜は晴れそうだ。満天の星が期待出来そうだ。
海斗の車は快適なドライブを続けていた。
日没を過ぎた空の色は徐々に深みを増して群青色の空へと変わる。
やがて二人の乗った車は目的地のホテルへ到着した。
ホテルは丸太をふんだんに使った山小屋風の建物だった。
山小屋風といってもお洒落で洗練された大人の隠れ家的な素敵な雰囲気だ。
車を降りた二人はホテルへ入りフロントへ向かった。
フロントがある一階のロビーは天井が大きな吹き抜けになっていた。
レトロなランタンがあちこちにぶら下がり優しいオレンジ色の光を放っている。
一階の奥の壁一面は全面ガラス張りになっていてその向こうには八ヶ岳の絶景が広がっている。
今は暗くてよく見えないが朝になったらその素晴らしい全貌が見えるだろう。
このホテルには温泉もあるのでゆったりと寛げそうだ。
すると二人の元へ白髪交じりの紳士が笑みを浮かべて近づいて来た。
「海斗君久しぶりだね。ようこそ!」
「佐伯さんご無沙汰しています。今日はすみません、急なお願いをして」
「全然構わないですよ。むしろ大歓迎だ」
佐伯という男性は笑顔で挨拶をした後視線を美月に向けた。
そこで海斗が美月を紹介する。
「彼女は僕のフィアンセで佐藤美月さんです」
「初めまして、佐藤です」
「おお、あなたがこの間の週刊誌に載っていらっしゃった方ですね? いやーお会いできて嬉しいです」
佐伯はニコニコして言った。
「佐伯さんはね、このホテルのオーナーなんだよ」
「海斗君とはまだ彼が20代の時だったかなぁ? 山中湖でバス釣りをしていた時に友達になったんですよ。それからはロックフェスの帰りによく一人で泊まりに来てくれていました。そう言えば女性を連れて来たのは美月さんが初めてだなぁ」
佐伯の言葉に美月が「そうなの?」という顔をする。
「うん、そうだよ。作詞に行き詰まるとよくここに来ていたんだ。自然の中だと不思議と創作意欲が湧いてスラスラ書けるんだよね」
海斗は当時を懐かしむように言った。
「まあ立ち話もなんですからどうぞこちらへ」
佐伯は二人をソファに案内した。そしてチェックインに必要な書類を持って来てくれる。
海斗がそれに記入を終えると佐伯は二人に言った。
「食事の準備はもう出来ていますから一休みしたらレストランの方へどうぞ! ではごゆっくり」
佐伯は再び二人に微笑むとフロントの奥へ戻って行った。
二人は早速二階の部屋へ向かった。部屋の前に立つと海斗が言う。
「さあお入りくださいシンデレラさん」
海斗は美月を先に入れてくれた。
部屋の雰囲気も山小屋風のナチュラルなイメージだったが家具や調度品はシンプルでとてもセンス良く部屋のインテリアはオフホワイトとベージュを基調にまとめられている。とても洗練された雰囲気だ。
窓を開けると近くにある森の新鮮な空気が漂ってくる。
この部屋には広いテラスがありここの三脚を立てれば天体撮影も可能だ。
テラスの右端には個室露天風呂もあり星空を眺めながらゆっくりと温泉に入る事も可能だ。
美月は「素敵!」を連発していた。美月が喜ぶ様子を見て海斗も嬉しそうだ。
そこで海斗が言った。
「美月、夕食の前に一緒に風呂に入ろう。俺はもう汗で身体がベタベタなんだ」
その言葉に美月は一瞬戸惑う。
しかし美月も今日は汗をいっぱいかいたので先に風呂に入りたい気分だった。
だから海斗の提案を受け入れる。
二人はテラスの露天風呂へ向かった。
二人は並んで身体を洗った後露天風呂に身体を沈める。
「あー、最高だな」
「うん、気持ちいい。露天風呂は星空を眺められるから好き」
美月は笑顔で夜空を見上げた。
薄雲に覆われていたはずの夜空はかなりクリアになっている。もうちょっと時間が経てば満天の星が期待出来そうだ。
「美月、こっちにおいで」
海斗が美月を誘う。美月は急に恥ずかしくなり顔が真っ赤になった。
すると海斗が美月へ近づいて美月の腰に両手を当てると、グイッと持ち上げて自分の上に跨るように座らせた。
美月が恥ずかしさのあまり戸惑っていると海斗は美月にキスを始める。
二人のリップ音が静かなテラスに響き渡っていた。
優しかった海斗のキスは徐々に激しさを増す。
そこで海斗は一度唇を離すと美月に優しく言った。
「美月、愛しているよ」
その後二人は絡みつくように身体を密着させると、海斗が一定のリズムを刻み始めた。
湯船の湯は激しく波立ち湯がこぼれ落ちる。
夢中で愛し合う二人の上には一粒の星が流線型を描いて流れていく。
流れ星は輝きを終える瞬間、一際明るい流星痕を残して夜空に儚く消えていった。
コメント
4件
昨日は、スーパームーンでした🌕️✨海斗さんと、美月チャン、2人の出逢いを思い出してました💕💕💕
愛する美月ちゃんに星を見せたあげたくて 八ヶ岳のホテル、しかも車に望遠鏡も積んで....って💖🤭 フェスで忙しくても 美月ちゃんだけは特別👩❤️👨♥️♥️♥️ 海斗さんのスパダリぶりにうっとり~😍💕💕 美しい星空を見上げながら、二人だけのラブラブな時間をすごしてね~🤭💏♥️
くぅ〜っ(๑≧ㅂ≦๑)ちゃんと望遠鏡🔭とか用意してぇ〜もう妬けちゃうし〜😆フィアンセだなんてこのこのぉ〜( >A<)ノペチペチ!海斗さんだから許される言い方〜✨ 八ヶ岳の満開の星空🌌の下、さらにラブラブになってねー💕(つ´,,>ω<)ω<`,, )💕💕むぎゅ