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香波のある世界(世界観)
この世界には、誰もが空気の中に「波」を漂わせている。
それは——**香波(こうは)**と呼ばれる、拍動する香りと光の揺らぎだ。
香波は、人や動物の皮膚にある脂腺から発せられる微細な粒子が、空気や水に触れた瞬間に香りを帯び、波のように広がる現象。香波者と呼ばれる一部の人間には、この波が光として見える。色は淡い緑から濃い赤まで変化し、その強さを示す。
緑は穏やかで安全、赤は危険なほど強い力——だが、その色や濃さは筋力や才能ではなく、その瞬間の感情や精神状態に大きく左右される。落ち着いていれば力は長く保たれ、怒りや恐怖は瞬発的な爆発力を生む。
香波には性質ごとに系統があり、森の湿り香や花香で治癒や鎮静を行う治癒系、焦げ香や金属香で衝撃や切断を繰り出す攻撃系、柑橘香で速度や集中力を高める支援系などがある。さらに、波の打ち方(拍動リズム)や力の出し方(呼吸型、接触型、封入型)によって効果は大きく変わる。
現代の街では香波は珍しくない。香波を動力にした乗り物や家電があり、警察や消防、医療、スポーツなど、あらゆる分野に香波者が活躍している。だが同時に、色や匂いによる偏見も根強く、弱香波者や制御できない強香波者は敬遠されやすい。
中でも——絶香者(ぜっこうしゃ)、俗に“ワキガ”と呼ばれる人々は特別だ。常に高密度の自己香波を放ち、周囲の香波感知を狂わせる。能力は最強だが、匂いのせいで日常では孤立する。戦場や災害時には英雄とされ、普段は距離を置かれる“切り札”のような存在だ。
そんな社会に——弱い緑香波のせいで「役立たず」とからかわれてきた少年と、誰も近寄りたがらない絶香者の親友がいた。二人の出会いはやがて、街の色も、匂いも、空気さえも変えていく——。
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