TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する



「あれは?」


「はあ……女官長と言っておりますが。出は羊飼いのようで、要するに、この国の者は元々、野で天幕《てんまく》暮らしをしていたのです」


「そうではない!あれは、なんだ!」


リヨンは手に持つ扇を女官に投げつけた。


「あの女は、何が言いたい?子を産めと?」


苛立つ主人を前に、女官は静かに頭《こうべ》を垂れる。


「後宮はどれほどの力をもっているのだ?この私が、どうして、女官長ごときの指図を受けなければならない。なぜ、あの女は、王妃の私室にまでやって来る!」


世を知らない王女と、慣習を押し通す女官長。余計な争いを呼び起こすのは、目にみえていた。


当然のことだが、リヨンは自国から外へ出たことがない。


王宮の奥深くで、日々ぬくぬくと過ごしてきた。


いずれは、縁続きの摂家に嫁ぐのだろうと、王である兄の庇護を受けていたのに、こうして異国へ下げられてしまった。


――まるで異なる世界に。


人慣れしていないのは、リヨン自身が一番わかっていた。だから、国許から選りすぐりの女官を連れてきた。


いくらか、大臣達と衝突もあろうと思ってのことで、が、まさか、我が城となる後宮で、女官ごときと……。


おそらく、自分の輿入れにあわせて立てられたであろう王妃の私室。


あまりに違いすぎた。


華がない。


――思い描いていた、王女の輿入れは……。


こんなもので、あってはならぬのに!


飾る織物、寝台のしとね……。


部屋の中に備わる絹は、ずいぶんと質が悪い。


螺《ら》でん細工の化粧箱。青磁の茶器。


それなりに趣向をこらした設《しつら》えも、リヨンには遊牧民の天幕生活と同じに見えた。


自国の部屋は、もっと豪華で居心地がよかった。


「兄王に、知らせなさい!絹を送ってもらわなければ!これで、許されるわけがなかろうに!」


丸く壁をくりぬいた、窓のむこうで、明かりが灯る。


王の私室がある棟《むね》らしい。


リヨンには、それすらも信じられなかった。


王も王妃もそれぞれの離宮で暮らすもの――。


これでは、覗き見されているようで、到底落ち着けない。


今まで、両国は関わりがなかった。


それだけに、リヨンの中で、些細なことが猜疑へとつながった。

朱(あけ)の花びら

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

15

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚