テラーノベル
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「聞かなくてもいい、とか言って、何それ」
優子はジロリと男を軽く睨むけど、拓人は、どこ吹く風、とでも言うように渋谷の夜景を見やる。
「だって、俺とあんた、一緒に行動してるワケじゃん? けどさ、念のためって事で」
「わ……分かったわよ……」
優子は、メッセージアプリのQRコードを表示させると、男がスマートフォンのカメラでスキャンさせる。
「あ、ついでに電話番号も教えてよ」
「…………はいはい」
彼女は、自分の連絡先をワイヤレスで拓人に送信させる。
「個人情報なんだから、勝手に他人に流さないでよねっ」
「…………流すワケないだろ。ってか俺、あんたに全然信用されてないんだな……」
男が眉間に皺を寄せながら、ハァっと短くため息をつきながら、後頭部を撫で付ける。
拓人に拾われ、一緒に行動してから、かれこれ二ヶ月半ほど。
全面的に信用している、と言ったら嘘になる。
今まで蹂躙され続けてきたというのもあって、彼女はまだ、男に完全に心を許せている状態ではない。
けれど、優子の本来の性格を、拓人の前で晒せるって事は、ある程度は信用している証なのだろう。
(何だか、心と身体が…………バラバラだな、私……)
男に心は許せていない部分があっても、身体が許せている状態に、優子は微苦笑するのだった。
拓人がスマートフォンの電源を切り、ローテーブルに置いたと同時に、インターフォンが鳴る。
男が玄関に向かい、ピザを抱えながら戻ってくると、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、二人で慎ましやかに乾杯した。
ジェノベーゼのピザと、炭火焼きチキンの和風ピザを食べながら、ガラス戸に映る夜景を見つめていると、拓人が優子の横に腰を下ろす。
「俺さ、大学生の頃から、ここに住んでるけど、あの夜景に癒されてたんだよな……」
「…………アンタ、よっぽど稼いでたんだね。じゃないと、なかなか渋谷になんて、住めないんじゃないの?」
「まぁそれなりに稼いでたな。夜の街とか、煌々と光っているネオンって、俺にとっては仕事に向かうスイッチみたいなものでもあったんだけど、夜っていう時間は…………俺に『生きている実感』を与えてくれるんだよな……」
「生きている実感……ね……。男って、セックスしている時に、俺は生きているって思うらしいじゃん。違うの?」
「いや、そういうエロい話じゃなくてさ……」
男が呆れたように笑っている。
「何ていうんだろうな。夜が、俺を…………生き返らせるっていうの?」
そんな事を言う男は、根っからの夜型人間なのだろう、と彼女は思う。
「まぁ俺も、日の当たる人生よりも、暗い道を歩く人生が性に合ってるって事なのかもな……」
影を落とした横顔に、優子は眼差しを向けると、拓人は、どことなく寂しそうに微笑んでいた。
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