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翌朝、拓人の部屋を後にした二人は、黒いセダンに乗り込む。
「さて。逃避行を改めて再開するか」
昨夜、男と話をしていた時、沈み気味だった表情が、何か吹っ切れたのか、今は楽しげな様子。
「いいけど…………アンタ、昨日と打って変わって、随分スッキリした顔つきじゃない?」
「まぁな」
憎らしいほどに清々しく答える拓人に、優子は、どことなく不穏な空気を感じてしまう。
けれど、男の中で、何かに整理を付けたとしたら、それでいいのだろう、と彼女は納得した。
「さて……『逃走資金』は、たっぷりある事だし……行くか」
「逃走資金って……また物騒な言い方しちゃって……アンタはアホなの?」
優子が、あからさまに呆れた表情を見せると、男は、シフトレバーをDモードにさせ、緩やかに車を発進させた。
***
ここから先の逃避行は、かなり長いものとなる。
「何かさ、俺ら、冒険してる感じじゃん?」
「冒険って……。アンタさぁ、追われている身なんでしょ? 何を呑気な事を言っちゃってるかなぁ? ゲームじゃあるまいし……」
ステアリングを操作している男が、テンション高く優子に話し掛けると、彼女は深々とため息を漏らす。
「人気RPGゲームシリーズの最新版だったっけなぁ? 勇者が『悪の子』とレッテル貼られて、ある国王と家臣に、執拗に追われるんだよ。って事はさ、俺って『勇者』じゃん?」
「アンタの場合は、勇者っていうよりも、『エロ男爵』って感じだけどね」
彼女は、ハハハッと乾いた笑いを声に出した後、あ〜あ……と口にしながら顔を背けた。
「ゲームの中の勇者と仲間たちは、悪に立ち向かうけどさ、俺らは悪から逃げ惑う『ヘタレ勇者と仲間』だけどな?」
拓人は、ステアリングを掴みながら、クククッと笑いを堪えている。
「っていうか、逃げてる段階で勇者じゃないでしょ? アンタ…………バカなの?」
「まぁ、細かい事は気にしないで、冒険の旅に出掛けるぜ?」
「…………この男……アホすぎ……」
男が、アクセルを踏み込むと、優子はゲンナリしながら、ため息をついた。