テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第七章 交わる月影
第ニ話 辿り着いた者たち
帝国へ続く街道は、多くの旅人で賑わっていた。
大きな荷馬車。
商人達の隊列。
巡礼者らしき人々。
そして、武装した兵士達。
その全てが、巨大な城壁の向こうを目指している。
ソレイユ帝国。
世界の中心。
太陽神に守られた国。
「うわ……」
ダイチが思わず声を漏らした。
高い城壁。
巨大な白い門。
空へ伸びる塔。
ラディスとは比べものにならない規模だった。
「ほんまにデカいな……」
感嘆したように見上げる。
対して、ジントはローブを深く被ったまま、黙って帝国を見つめていた。
胸の奥が、ずっとざわついている。
帝国へ近付くほど、空気が重い。
人が多いからじゃない。
もっと別の、目に見えない何か。
薄い瘴気が、街全体を覆っているような感覚だった。
「次!」
門番の大声が響く。
長い列が、少しずつ進んでいく。
やがて二人の番が来た。
「身分証を」
鎧姿の門番が、鋭い目でこちらを見る。
ダイチは慣れた様子で、旅人用の通行証を差し出した。
「ラディスから来たんやけど、問題ない?」
門番は無言で確認する。
そして次に、ジントへ視線を向けた。
通行証を渡す。
「……そっち」
低い声。
「フードを取れ」
一瞬、空気が止まった気がした。
ジントの指先が、ローブの裾を僅かに握る。
周囲の視線が集まる。
ざわり、と胸の奥が冷える。
けれど、ここで拒否する方が不自然だ。
ジントは静かに、フードへ手を掛ける。
さらり、と黒髪が零れ落ちる。
陽の光を吸い込むような黒。
そして、ゆっくり上がった瞳も、深い黒だった。
周囲の空気が変わる。
門番の眉が、僅かに動いた。
「……黒髪」
小さな声。
「珍しいやろ?」
すぐにダイチが笑う。
重くなった空気を払うように。
「こいつの親も同じ色やったらしいで。
オレも最初びっくりしたわ」
「……」
門番は黙ってジントを見る。
黒髪黒眼。
帝国では、古くから不吉の象徴とされる色。
知らない者はいない。
周囲でも、小さなざわめきが広がっていた。
「黒髪って……」
「珍しいな」
「まさか……」
ひそひそ声。
ジントは表情を変えなかった。
慣れている。こういう視線には。
けれど、胸の奥は少しずつ冷えていく。
その時、門番が小さく息を吐いた。
「……まあいい」
通行証を返す。
「騒ぎは起こすなよ」
「はーい」
ダイチは軽く手を上げた。
そして、ジントの背中を軽く押す。
「行こ」
二人は門をくぐる。
その瞬間帝国の景色が、一気に視界へ広がった。
白い石畳。
巨大な建物。
行き交う人々。
露店の並ぶ大通り。
噴水広場。
鮮やかな旗。
活気。
熱気。
「すっげぇ……!」
ダイチの瞳が輝く。
「見ろよジント!あの店めっちゃデカい!」
「……子供みたい」
「しゃーないやろ初めてやし!」
はしゃぐダイチを見て、ジントは小さく息を吐いた。
けれどその直後。
胸の奥が、どくんと脈打つ。
「……っ」
まただ。
宿場町より強い。
瘴気。
人々の不安。
苛立ち。
焦燥。
様々な感情が、空気へ混ざっている。
それが、身体の奥へ流れ込んでくる。
気持ち悪い。
呼吸が浅くなる。
「ジント?」
「……なんでもない」
咄嗟に答える。
けれど、周囲の視線が気になった。
人が多い。
黒髪黒眼は、やはり目立つ。
通り過ぎる人々が、ちらちらこちらを見る。
好奇。
警戒。
不安。
中には、露骨に顔をしかめる者もいた。
ジントはローブを深く引いた。
「……早く宿探そう」
「ん?まだ早い――」
言いかけたダイチが、ふと空を見上げる。
西の空が、薄く茜色へ染まり始めていた。
そして、夜の向こうから、ゆっくりと月が顔を覗かせる。
ほぼ満ちかけた月。
それを見た瞬間。
ジントの胸の奥で、“何か”が静かに目を覚ました気がした。
コメント
1件
うわ、ついに帝国に着いたんですね…! 門番にフードを取らされる場面、一瞬の緊張がすごく伝わってきました。ダイチの軽いフォローが染みますね。 それにしても、ジントの胸の奥がざわつく“空気の重さ”の描写が繊細で、読んでるこっちまで息が詰まりそうでした。 ラストの月の場面、“何か”が目を覚ます予感がして、次がすごく気になります…!
#M!LK
はる☻
11,143
#ご本人様には関係ありません
sora
36
莉心
60
#山中柔太郎
Yuna
22,791