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第十六章 月に還る闇
第四話 それぞれの決意
食事を終えた5人は、再び二階の部屋へ戻ってきた。
窓から差し込む陽光は柔らかく、昼下がりの静かな空気が部屋を包んでいる。
誰からともなく、それぞれ好きな場所へ腰を下ろした。
ジュウタロウはベッドへ。
ハヤトは昨夜と同じ椅子へ腰掛ける。
シュンタはそのまま床へ転がった。
ダイチとジントは並んでベッドへ腰を下ろす。
しばらく誰も喋らなかった。
穏やかな沈黙。
気まずさではない。
ただ、それぞれが同じことを考えていた。
ーーもうすぐ、その時が来る。
やがてハヤトが静かに立ち上がった。
決意を固めるように息を吐く。
「……今夜、いよいよ月の一族の里……
そして、白霧山へ向かう」
全員の視線が自然と集まった。
窓から差し込む光が、金色の髪を照らしている。
「俺たちの、最後の目的地だ」
その言葉に誰も口を挟まなかった。
ハヤトは真っ直ぐジントを見る。
「……ジント」
突然名前を呼ばれ、ジントは少し目を見開いた。
金色の瞳が優しく細められる。
「俺は……、月蝕の子が役目を果たすことで、この世界から魔物がいなくなる。そして平和になる」
「……それが全てだと思っていた」
皇子としての顔だった。
帝国の未来を背負う者としての答え。
静かな声が続く。
「でも……ジントと出会って、一緒に旅をして、たくさん話して……」
少しだけ笑う。
「ジント、……お前も救いたいと思うようになった」
ジントの瞳が揺れた。
「だから今夜、何があっても最後まで俺は俺のできることをしたい」
ハヤトは穏やかに笑う。
「だから、一人で頑張ろうとするなよ」
その眼差しはどこまでも優しかった。
静かな沈黙が落ちる。
そして今度はジュウタロウが口を開いた。
「俺は……」
銀色の瞳が伏せられる。
「正直、こんなところまで来るつもりはなかった」
脳裏に浮かぶ。
母の笑顔。
雪原を駆ける白狼リュカ。
失ったもの。
求め続けた答え。
「フィルディアを出た時は、自分の目的……、魔物化の真相を突き止めることしか考えていなかった」
静かに息を吐く。
「だが気付いたんだ」
顔を上げる。
そこには4人の仲間がいた。
「それだけでは何も変わらない」
「世界も、自分自身も」
銀色の瞳が柔らかく細められる。
「だからこうしてここまで来た」
そして静かに告げた。
「俺はその選択を後悔していない」
ジントを見る。
「最後はお前にしかできないことだ」
その言葉に強い信頼が宿っていた。
「だが、俺たちが傍にいるからな」
ジントは小さく頷いた。
今度は床へ寝転がっていたシュンタが起き上がる。
「次は俺やな」
いつものように笑っている。
けれどその深紅の瞳は真剣だった。
「まぁ、もともと俺はずっと旅をしながら生きとったからな」
肩をすくめる。
「出会いも別れもいっぱい経験してきた」
少し考えるように天井を見る。
「なんやろなぁ……」
笑う。
「流れというか」
さらに笑う。
「こいつらとおったら面白そうやな〜と思って着いてきたってのが本音やし」
部屋に小さな笑いが起こる。
シュンタらしい。
「でもな」
その笑顔のまま続ける。
「俺ホンマにみんなのこと好きやし、一緒におると楽しいし……」
そしてぽつりと言った。
「世界とか月蝕の子とか関係なく、俺はまだまだこうして、みんなと旅していたいねん……」
誰も笑わなかった。
それが本音だと分かったから。
シュンタは空気を変えるように手を叩く。
「だから次は――」
にやり。
「みんなでフィルディアでも行こか!」
静かだった部屋に笑い声が広がった。
「なんでフィルディアなんだ」
ジュウタロウが嫌そうな顔をする。
「みんなで行ったら楽しそうやん!」
「勝手に来るな」
「冷たっ!」
また笑いが起こる。
そして自然と視線はダイチへ向いた。
「えっ」
ダイチが固まる。
「俺も!?」
「当たり前やろ」
シュンタが即答した。
ダイチは頭を掻く。
少し照れ臭そうに。
「俺は……」
青い瞳が揺れる。
「ラディスを出て、ジントと二人で旅をして……」
脳裏に浮かぶ。
二人で歩いた街。
魔物との戦い。
焚火を囲んだ野営。
些細なことでの喧嘩。
いつも隣にあった笑顔。
全部。
「魔物とか野営とか、大変やったけど、……楽しかった」
ジントを見る。
「ジントの力の理由を知るためっていう目的はあった」
小さく笑う。
「けど、このままなんとなくずっと二人でおるんやと思っとった……」
ジントも思わず笑った。
分かる気がした。
「でも帝国でハヤト達に出会って、一緒にジントを守ってくれて……」
「俺自身も支えられて……」
青い瞳が真っ直ぐ仲間達を見る。
「ホンマに出会えて良かったと思っとる」
そして最後に、その瞳はジントだけを映した。
「月蝕の子の話とか聞いた時は驚いたし、……正直よう分からんかった」
少し笑う。
「でもな」
ダイチは迷わなかった。
「最初から最後まで、俺のやることは一つだけや」
ジントの瞳が揺れる。
「ジントを守る」
強く、優しく、真っ直ぐな声。
「それだけや」
部屋が静かになった。
ジントはしばらく俯いていた。
やがてゆっくり顔を上げる。
黒い瞳の奥に、強い光が宿っていた。
「俺は……」
小さく息を吸う。
「小さい頃から、自分が何なのか知りたかった」
「…………」
「みんなと違う理由が知りたかった」
ここまで旅をして。
一つずつ謎が解けていった。
そして今。
「それが全部わかったから……」
「俺は自分のために」
瞳が揺れる。
「みんなのために」
そして強く言った。
「役目を果たさなきゃいけない」
静かな声。
けれど迷いはない。
「俺……今まで自分自身のこと、あんまり好きじゃなかった」
誰も言葉を挟まない。
「いつかは消える存在なんだと思ってた」
声が震える。
「でも……」
ジントは仲間達を見た。
「みんなが俺を必死に守ってくれて」
「一緒に笑って、励ましてくれて……」
涙が滲む。
それでも笑った。
「だから俺……ちゃんと」
震える声で。
願うように。
「……役目を、終えても……」
「みんなと、……帰りたい……!」
その瞬間。
ダイチがぎゅっと手を握った。
温かかった。
ハヤトが頷く。
ジュウタロウも微笑む。
シュンタも笑っている。
「ああ」
ハヤトの声は揺るがなかった。
「みんなで帰ろう」
当然だという声だった。
5人は顔を見合わせる。
そして笑った。
するとシュンタが勢いよく立ち上がる。
「じゃあ終わったらまず飯よな!」
一瞬で空気が変わった。
「豪華にパァーッといきたいわ〜!」
「やっぱシュンタはそれなん!?」
ダイチが吹き出す。
「俺はばあちゃんの手料理食べたいな」
ジントが涙目で笑う。
「ミルハの食堂の料理は美味かったな」
ジュウタロウが呟く。
「え!?」
シュンタが振り返る。
「あの激辛また食べたいん!?」
「悪いか」
「フィルディアの王子が激辛好きとか、とんだ土産話ができたな」
ハヤトも笑う。
シュンタは大きく頷いた。
「やっぱみんなでフィルディア行こうや!」
そしてジュウタロウを指差す。
「俺、ジュウの妹にまた会いたいねん!」
「お前にはもう会わせん」
即答だった。
しかも本気で嫌そうだった。
「なんでや!?」
「当然だ」
「ひどっ!」
「ジュウタロウの妹って、物凄い美人さんなんやろ?」
ダイチまで乗っかる。
「噂は聞いたことあるで」
「ダイチまで……」
ジュウタロウが眉間に皺を寄せる。
その横で。
「ジュウタロウの妹かぁ」
ジントが楽しそうに笑った。
「俺も会ってみたいな」
すると。
「……ジントなら良い」
ジュウタロウが真顔で答えた。
一瞬静寂。
「なんでぇ!?」
シュンタが叫ぶ。
「俺もええやん!」
「お前はダメだ」
部屋中に笑い声が響く。
日が少しずつ傾いていく。
窓から差し込む光は黄金色へ変わり始めていた。
温かな部屋。
穏やかな時間。
揺るがぬ決意とは裏腹に、誰もがこの時間を終わらせたくないと思っていた。
けれど、時計の針は止まらない。
その先に待つ運命から逃さないというように。
窓の外では、太陽がゆっくりと西の地平線へ沈み、夕闇が静かに広がっていった。
コメント
5件
みんなジントに向けた言葉が優しくて温かくて胸打たれました(т-т) ダイチの最初の頃から変わらない「ジントを守る」の言葉にグッときちゃいました😭 みんなでまたわいわいして欲しいですね……
本当に終わりに近づいてきてるんですね😭 5人の旅が終わることが、段々近づいてくるのが分かって、読み進める度に、寂しくなりました。
うわああああ😭💕 第29話、読み終わったよ…! それぞれの決意、マジで心に来た…! ハヤトが「ジントも救いたい」って言ったところ、皇子としてだけじゃなく一人の人間としての想いが溢れてて泣けた。ジュウタロウの「後悔していない」も、彼の過去を思うと重みが違うよね。 そして何より、ジントが「みんなと帰りたい」って涙ながらに言ったシーン…! 今まで自分を好きになれなかった子が、仲間に出会って初めて「帰りたい」と思えたのが尊すぎる😭✨ 最後の日常の掛け合いで笑いが起きるのも、彼らの絆がちゃんと見えてて大好きだよ。この旅の終わりが近づいてる感じが切ないけど、温かい話だった! comiさん、本当に素敵なエピソードありがとう〜🌸