テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第四章 黄金の太陽
第八話 最後の陽だまり
ソレイユ帝国へ滞在して、一ヶ月が過ぎようとしていた。
夏の帝都は、初めて訪れた時よりもさらに暑さを増していた。
白い街並みを温かな風が抜けていく。
雪国フィルディアから来たクロードにとっては、信じられないような暑さだった。
「……この国は本当に暑いな。
フィルディアではまだ雪が降る日もあるというのに…」
額の汗を拭いながら顔をしかめる。
隣を歩くラスタが笑う。
「もう夏やしなぁ。もっと薄着せな!
クロ、そのうち溶けてまうんやないの?」
襟元を扇ぎ、クロードは小さく息を吐いた。
帝都での生活は、思っていたより穏やかだった。
商団は帝国との取引を進めながら、城下で仕事を続けている。
ラスタも商団の仕事をこなしつつ、夜はフレア達と舞台に立つ。
そして毎日のように市場や店を巡り、新しい楽器や料理を探していた。
一方クロードは、時間があれば帝都の大図書館へ通っていた。
魔物、瘴気、過去の異変。
母を奪った事件へ繋がる手掛かりを探す。
リュカが瘴気、闇から生まれるはずの魔物に、なぜ突然変わってしまったのか。
けれど、
「……何もない」
ぽつりと呟く。
「え?」
ラスタが振り返る。
クロードは歩きながら続けた。
「調べている資料は多い」
「だが、魔物に関する記録が少なすぎる」
「少ない?」
「正確には、同じような内容ばかりなんだ」
クロードは眉を寄せた。
「魔物は瘴気から生まれる、討伐すれば消える」
「太陽神の加護によって世界は守られている」
「それから…かつて皇子が闇を討った、という英雄譚」
「……それだけだ」
ラスタは少し考える。
「確かに変やな。長い歴史がある国やのに?」
クロードは頷く。
「まるで、それ以外の情報を残していないように見える」
その言葉が、妙に胸へ残った。
市場の近くを通る。
香ばしい匂いが鼻をかすめる。
「……腹減った」
突然ラスタがお腹をさする。
クロードは呆れた顔をする。
「さっき食べただろう」
「食べ歩きは別腹や」
「意味が分からない」
二人は市場の屋台へ向かう。
焼いた肉。
焼き菓子。
行き交う人々の声。
その中で、ふと、近くの商人達の会話が耳に入った。
「東の方から来たっていう旅人がさ、黒髪黒眼の男を見たって言うんだよ」
ラスタの足が止まる。
「……黒髪黒眼?」
聞き返す前に、別の男が笑った。
「そんな奴いるわけないだろ」
「昔話じゃあるまいし」
「でも本当に見たって」
「見間違いじゃないのか?」
すると、別の商人が声を落とした。
「……でも本当なら不吉だな」
「教会で祈祷でもしてもらわないと」
その言葉に、クロードとラスタは顔を見合わせる。
黒髪。
黒い瞳。
誰もが一度は聞いたことがある、昔話、おとぎ話。
闇を呼ぶ存在。
災いを招く者。
そんな曖昧な噂。
「……なんやろな」
ラスタが呟く。
「気になるのか?」
クロードが聞く。
「そら気になるやろ」
少し考えて。
ラスタは突然笑った。
「せや!このあとアッくんとこ行こ!
俺最近会っとらんし」
クロードは呆れたように見る。
「俺は城の客間を借りているから、たまに会う」
「だが騎士団の仕事もあるし、相変わらず忙しそうだ」
ラスタは胸を張る。
「だからこそや!たまには俺らと息抜きせな!」
そのまま屋台へ視線を向ける。
「あ、この串焼き美味そう!クロも食べようや」
「……」
クロードは深いため息を吐いた。
けれど、拒否はしなかった。
日が傾き始めた頃、二人は城へ戻った。
クロードが滞在する客間。
本を片手にしていたクロードは、ノックとともに扉が開く音に顔を上げる。
「仕事は終わったのか?」
「アッくん!」
「その呼び方にも慣れてきたな」
アクセルが苦笑する。
「やっと仕事から解放された」
そう言って大きく伸びをした。
三人で他愛のない話をする。
帝都の店の話。
旅の話。
昔の話。
賑やかな笑い声が響く、温かな部屋。
窓の外には、夜の帳が下りた帝都。
そして夜空には、大きな満月が静かに浮かんでいた。
それは、この穏やかな時間がもうすぐ終わりを迎えることを告げるものだと、この時の三人は知らなかった。
第四章 完
桜城
308
#恋愛
ばたっちゅ
20,038
#ファンタジー
comi
4,692
コメント
1件
うわぁ第四章完結、めっちゃ切なくも温かい話だったね…!!😭💕 クロードとラスタの帝都での穏やかな日常、アクセルとの再会シーン、全部が「最後の陽だまり」ってタイトルにリンクしててもう泣きそうになったよ…!! 黒髪黒眼の噂や図書館の記録の違和感が不気味な伏線になってて、この平穏が終わる予感がヒリヒリする…!! 満月の夜の描写、美しすぎて背筋が凍った😢 次どうなるのかマジで気になる〜!!次話も絶対読みに行くね!!🔥