少しすると徐々に雨が止んできた。
それと共に青空も見えてくる。
「あ!!虹!」
そう叫びながら畑葉さんは虹があるであろう方向を指差した。
珍しいことに虹は二重になっており、
僕と畑葉さんの時間の特別感が増す。
「案外雨も悪くないね」
にししっと歯を出しながら笑みを向ける。
この畑葉さんの笑い方好きだなぁ。
そう思いながら
「テスト明後日だね…」
と声を零す。
「え、もう明後日?!」
「そうだよ?」
「全然まだ先なのかと思ってた…」
そんな会話を交わした後、僕らは別れた。
気づけばもうテストの日になっていて、
気づけばテストは終わっていて。
もう放課後の時間になっていた。
「雨、だね…」
テストの日は雨だった。
縁起が悪い。
まだ5月に入ったばかりなのにも関わらず、
雨は止むことを知らなかった。
「テストどうだった〜?」
そう畑葉さんの声が僕の真隣から聞こえる。
畑葉さんは相変わらず傘を持ってきていない。
いや、もしくは持っていないのかもしれない。
だから僕と相合傘状態なのだが…
案外声が近くて会話の内容が全く頭に入ってこない。
「聞いてる?」
何も答えないで黙っていると、
頬を膨らました顔で僕の顔を覗き込んできた。
「聞いてるよ聞いてる!!」
そう言いながら少し離れるも、
傘は畑葉さんを雨から守ったまま。
「テストは、まぁまぁかな〜…」
そう言いながらもさっきより離れて歩く。
歩いている時にたまに肩が当たるのがなんだか恥ずかしく思えたからだ。
「風邪引くからもっとこっち寄って」
そう言って畑葉さんは僕の服の裾を引っ張る。
そのせいでコツンと肩が当たってしまう。
本人はなんとも思っていなさそうなのが少し腹立つ。
「畑葉さんは出来たの?」
心の中で『平常心』と何度も唱えながらそんなことを聞く。
と、
「私もまぁまぁかな」
と言う。
『出来なかった』って言うと思ってたのに。
もしかしたら維持を張っているだけかもしれない。
「雨って好き?」
急にそんなことを言われ、思わず立ち止まる。
「わっ!!急に止まらないでよ!!」
僕が止まると同時に畑葉さんの上の傘も止まる。
だから畑葉さんには “ 一瞬だけ ” 雨が降り注いだ。
「雨?あんまり好きじゃないかな」
「だって僕、偏頭痛持ちだし…」
雨が降る少し前は必ずと言ってもいいほどに頭痛が襲ってくる確率は高い。
だから梅雨は好きじゃない。
でも紫陽花と雨のコラボレーションは案外好きだ。
「私も好きじゃない…」
「じめじめするし…」
「そうだn───」
「しかも!!雨だと外で遊べないじゃん!!」
どうやら僕が話す隙間もくれないらしい。
「あ、そういえば今日時間ある?」
「まぁ…あるけど?」
「じゃあカメラ買いに行こ!」
カメラ?
カメラなんて買ってどうするんだろうか。
「ねぇ、本当にそれでいいの?」
畑葉さんが迷わず買ったのは7枚しか写真が撮れないカメラ。
どうせなら沢山撮れるカメラを買えばいいのに。
「うん、これがいいの!!」
そう言いながらスキップして大きな桜の木が生えた丘の方向へ。
転んでしまいそうで目が離せない。
ふと目の前を歩いていた畑葉さんが急に立ち止まり、空を見上げ出した。
僕もつられて見上げると目に映ったのは前に見てみたいと話したマジックアワーと星々のコラボレーションだった。
見たことがない。
こんな綺麗な空。
ていうか空なんか普段見ないし。
そう心の中で感想を述べていると、
隣からシャッター音が聞こえた。
見ると、カメラを構えている畑葉さんが居た。
さっそく7枚のうちの1枚を使ったらしい。
何とももったいない。
次の日になってもやはり雨は止まなかった。
僕の頭はズキズキと鳴り響き、
畑葉さんは液体になってしまったかのように机に突っ伏している。
顔は見えないが寝ているのだろうか。
今は授業時間でも休み時間でも無い。
放課後の時間である。
さっきまでは晴れていたのに帰るってなったら急に降ってきた。
じめじめしているのは変わりないが。
きっと雨女か雨男が外に居るのだろう。
そうに違いない。
そう馬鹿な考えが次々と浮かぶも、
帰る気には一切なれなかった。
気づけば僕の机上はティッシュ製のてるてる坊主で埋まっていた。
どうやら暇で大量に作っていたみたいだ。
「何してんの…?」
寝ていたと思った畑葉さんの声が聞こえ、
ガタンと机を鳴らしながら驚く。
「驚きすぎでしょ」
ふふっと笑う畑葉さんだが、
少しの気だるさがこちらへ漂ってくる。
「可愛い、」
そう言いながら1番小さいてるてる坊主の頭を撫でる。
そして欠伸をする。
どうやら寝ていたのは間違っていなかった。
が、なんだか寝起きの畑葉さんってイケメンだなぁ…
そう思いながらしばらく畑葉さんを見つめる。
いつもならゆでダコのように顔を真っ赤にして『何見てるの?!』って声を上げる。
が、畑葉さんは
「なに?」
とたった一言を僕に問いかけるだけだった。
しかも少しの笑みを浮かべながら。
それが何とも目にも心にも毒で。
かっこよさも可愛さも備えてるなんて…
恐るべし畑葉 凛。