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羽海汐遠
11,882
こはるん
44
アサヒは、学校の塔の最上階にある窓から、遥か遠くに佇む「黒曜石の谷」の方向をじっと見つめていた。
どんよりとした曇り空を、大きな影が旋回している。王国騎士団が誇る、竜騎士団の飛竜だ。
ナギが深い谷底へ消えてから、今日で一週間。捜索は完全に難航していた。
初日には何十頭もの飛竜が空を埋め尽くしていたというのに、今や見えるのは、点のような二、三頭だけ。それが、冷酷な現実を物語っているようで胸が苦しくなる。
「何やってんだよ、お前……。ナギ……」
ぽつりと、誰にも届かない独り言が口をついて出た。
「あっ、またここにいた!」
背後から、バタバタと階段を駆け上がってくる足音とともに、カゼハの声が響いた。
「ボイド先生が、昨日のミッションの反省会を始めるって。……もう、いつまでふてくされてるのよ」
「ふてくされてねぇよ」
ぶっきらぼうに返し、アサヒは視線を落とす。
昨日のミッションは、臨時で雇ったヒーラーとバファーのおかげで、一応は無事にクリアできていた。けれど、お世辞にも良い戦いとは言えなかった。連携はバラバラで、ただ力押しで勝っただけだ。
(――ナギがいたら、あんな不細工な勝ち方はしなかった)
つい、そう比較してしまう。
アサヒはチッと小さく舌打ちをすると、窓から離れてカゼハの待つ階段へと歩き出した。
すれ違いざま、カゼハがアサヒの背中に向かって、自分自身にも言い聞かせるように叫んだ。
「見つかるわよ……! だって、遺品すら何も見つかってないんだもの。きっとあいつ、自分で脱出しようとして、別の場所に移動してるのよ!」
「……当たり前だろ」
アサヒは前を向いたまま、低くつぶやいた。
この世界において『何も見つからない』ということは、すなわち死んでいない証拠だ。もしも力尽きて亡くなったのなら、持ち物に魂が宿り、遺品としてその場に残る。それすら見つからないのだから。
(アイツは、絶対に生きている)
アサヒは悔しさを押し殺すように、グッと下唇を噛みしめた。
――。
案の定、その日の反省会は大荒れだった。
まずは、学校の成績だけはトップクラスという生真面目な臨時ヒーラーが、金切り声を上げる。
「あんたねぇ! 実戦で詠唱を省略するなんて、あり得ないのよ!?」
神経質そうにメガネのブリッジを押し上げると、アサヒの鼻先に人差し指を突きつけた。
「魔導の基礎もなってないくせに突っ込んでいって、そんなのに回復のタイミングを合わせられるわけないでしょ!?」
続いて、戦場を支配したがる臨時バッファーの男が、傲慢に足を組んでアサヒを見下ろす。
「そうですよ。君、僕のバフのカウントダウンを聞いてって言いましたよね? 君はあまりにもスタンドプレーが多すぎる。もっとチームの規律に従ってもらわないと困るな」
その言葉が、アサヒの逆鱗に触れた。
「てめぇのトロくさいカウントダウンなんか待ってたらなぁ! ボスのプロテクト魔法が間に合って、こっちの攻撃が全部弾かれちまうんだよ!! 一撃が入らなきゃ、バフなんて何の意味もねぇんだよ!!!」
ドン、と机を叩き、今にも掴みかかりそうな勢いで怒鳴り返すアサヒ。臨時バッファーは「ひっ……!」と顔を引きつらせてのけぞった。
カゼハは「また始まった……」と、うんざりしたように両手で顔を覆う。
アサヒの武器は、教科書通りの大魔法じゃない。敵のガードが下がった一瞬の隙を見逃さず、呪文を省略して最速で叩き込む、超高速の奇襲だ。
つまり、アサヒ自身ですら「今から突っ込む」と意識していないような野生の直感に、完璧にタイミングを合わせて強化魔法を乗せられるバッファーなんて、世界中どこを探してもナギ以外にいないのだ。
――少なくとも、アサヒ自身が頑なにそう信じ込んでいる限りは、誰が来ても無理に決まっていた。
コメント
1件
ああ、もう、見てるだけで胸が苦しくなるわ……。アサヒの「ナギがいたら」っていう比較と、カゼハが必死で励ましてるところが切なすぎる。遺品すら見つかってないから生きてる証拠って設定、なるほどね——って納得しつつも、それって逆に絶望が長引く可能性もあるわけで。臨時パーティとの衝突も、ナギとの信頼関係の厚さを際立たせてて、もどかしいけど熱い回だった🔥