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年上男子と腹ペコ女子

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年上男子と腹ペコ女子

1 - 1話  美味しい出会いは突然に

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2023年06月01日

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それは子供の頃の記憶。

「しーちゃん、お誕生日おめでとう」

「ありがとー!」

「もう7歳か、早いな」

目の前に並ぶご馳走に目を輝かせる。今日は私の7回目の誕生日。料理が得意なお母さんが私の好物ばかりを作ってくれた。チーズの入ったハンバーグ、海老グラタンにミートソースのスパゲティー、コーンスープ。どれもこれも本当に私の大好物。

早く食べたくてお母さんの顔をちらりと見れば、お母さんはにっこりと微笑み頷く。

「いっただっきまーす!」

どれから食べるか迷ったけど、まずは一番の好物のハンバーグ。お 箸(はし)で半分に切ると、中からとろけたチーズが 溢(あふ)れてきて、思わず生唾を飲み込む。

溢れたチーズをデミグラスソースがたっぷりのハンバーグに絡め、パクリと頬張る。口に入れた瞬間じゅわっと肉汁が口いっぱいに広がり、チーズの濃厚な味と絡んですごく幸せだ。ほっぺたが落ちるかと思った……。

あつあつ海老グラタンは、大きめの海老が熱々でクリーミーなホワイトソースとの相性抜群。表面のチーズも、こんがりとオーブンで焼かれ香ばしくてとっても美味しい。熱いのに止まらなくて、ハフハフ言いながら食べてしまう。

次はミートソーススパゲティー、ケチャップベースの甘ーいソースがスパゲティーの麺に良く絡み、ひき肉と玉ねぎの食感が楽しい。一休みしてコーンスープをスプーンで 掬(すく)えばトロトロで、口に含むとクルトンのサクサク具合とコーンの粒がいい歯ごたえ。全部の料理が美味しくて幸せで、食べると心まで満たされていく。

でもピーマンだけはどうしても苦手だ。あの独特のシャキシャキ感と苦味がとっても嫌。ハンバーグに添えてあったものを避けるとお父さんに口まで運ばれる。いやいや食べれば二人は幸せそうに笑った。

「しーちゃんは本当に食べるのが好きねぇ」

「こっちまで幸せになるな」

「うん好き!でも、パパやママやお友達……大好きな人と食べるご飯はもっと好き!」

そうだ、あの頃の私は食べることが大好きだったんだ。


———いつから私はこんなにも食に興味がなくなったんだろう。

コンビニのお弁当の陳列棚を眺めながらふと思った。夜ご飯は毎日コンビニ弁当、そして選ぶのも面倒くさいから、値段の一番安い海苔弁を手にレジに向かう。

お弁当は温めますか?店員の声に頷く。どうせ半分も食べずに捨ててしまうのだから本当はどっちでもいいんだけど。

「ありがとうございました」

コンビニを出ると人気はなく、家までの一本道は街灯と家の灯りが照らすだけ。ヒールが地面を鳴らす音だけが寂しく響く。時刻は夜の21時をまわったところだ。

東京に出てきて一年以上が経った。新卒で入った今の会社も気がつけば後輩がいて、今年で2年目の春。毎日忙しいが、なんとかここまで辞めずにきた。

お母さんは電話の 度(たび)に私の食生活を心配するけど、胃に入ればなんでもいいでしょ。残業しまくりで食べる気力もない。

「早く帰って寝たいなぁ……」

私の住む部屋はアパートの二階の1DK。物件探しの時に、会社から歩いて通えるという理由で迷わずここに決めた。冷たい手すりを掴み鉄製の階段を上り、いつも通り大きく息を吸い込む。

この少し甘そうなルーの匂い懐かしいな、お母さんの作ったものと似てる。だけど微かにニンニクや、リンゴのような甘い香りもする。今日のお隣さんの夕ご飯はカレーか……。しかも隠し味入りの手の込んだやつ。

引っ越してきて以来一度も会ったことがないお隣さんは、丁度私が帰ってくる時間帯に夕ご飯らしく、毎日嗅いで当てるのが最近のマイブームだ。

それにしても疲れた。最近本当に過酷過ぎる……。早く寝なくちゃ。お隣さんの部屋の前を通過し、自分の部屋の前で立ち止まり 、 鞄(かばん)から鍵を取り出しているとタイミング良く隣の部屋のドアが開いた。

「……どうも」

「こんばんは」

お隣の部屋から顔を出したのは、細身の背の高いキツイ顔付きの男だった。パーカーにジーンズ姿で、少し長い髪を一つに束ねている。

お隣さんは私と目が合うと会釈をしてタバコを 咥(くわ)えた、室内では吸わない派なんだな……。っていうか夫婦なのかな?きっといつも奥さんが作った手料理を二人で食べてるんだろう。

勝手な想像を 巡(めぐ)らせていると、お隣さんの切れ長な目がこちらに向いた。

「一人暮らし?」

「……そうですけど」

「いつもそんなの食ってるの?」

そんなの、とお隣さんが指したのはコンビニ袋だった。そんなの……?そんなのとは失礼だな!

「ぜんっぜん、 こんなので十分です!」

「そう……それで君いくつ?名前は?」

「小田雫(おだしずく)です。……22歳です」

「へぇ」

聞いたくせに、興味なさげにタバコふかすのやめてほしいんだけど。なんとなくイライラして、私もお隣さんに尋ねた。

「名前、聞いてもいいですか?」

「芥大和(あくたやまと)。今年で30」

「さんじゅう…」

随分と年上なんだなこの人…、まぁ、私には関係無いけど。部屋に入るべく鍵を開けようとすると、お隣さんがまた口を開いた。

「雫ちゃんはカレーとか食う?」

「え?!あ、まぁ……はい」

いきなり名前呼びとか何、怖い。動揺を隠せずにいると、お隣さんは何かを考え話しを続ける。

「うちでカレー、一緒に食わねぇ? 」

「えっ?」

「沢山(たくさん)作って余らせてるんだよ」

初対面でいきなりなんなんだ。というかカレー作ってくれたのお嫁さんでしょ?この人無神経過ぎじゃない?

「いえ、遠慮します」

「なんで」

「なんでって……、奥さんと二人で食べて下さいよ」

「は?!嫁なんて……」

「とにかく、お休みなさい」

「おい!! 」

お隣さんの声を 遮(さえぎ)り部屋に入った。変な人だったな。

袋からお弁当を出すと、それはとっくに冷めていた。なんだか余計に疲れたな、もう今日はご飯はいいや。 怠(だる)い身体を引きずり、ベットに倒れこむ。

(……30歳の男の人って……もっと老けてるイメージあったなぁ……)

職場の上司で30歳って言っても、もっと老けててやつれてて……って、それはいつも仕事で疲れてるからか。

けど、お隣さんは全然違った。キツそうだけど整った顔つきに、細いのにしっかりした体つき。さっきは気にならなかったけど、背も高いしきっとかっこいい部類なはずだ。でも結婚してるのにあんなに無神経なんて……今後あまり関わりたくは無いなぁ。

……でも、カレーは少し食べたかったかも。お店で食べるカレーも美味しいけど、お家で作るカレーって特別美味しく感じるんだよね。……いい匂いだったなぁ……。そんなことばかり考えていたらお腹がグゥッと鳴る。だけど眠気には勝てず、思考はいつの間にか沈んでいた。

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