テラーノベル
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朝、目を開けた瞬間、世界が一瞬だけ傾いた。
「……っ」
起き上がろうとして、視界が白く滲む。
ぐらり、と床が遠のいた。
立ちくらみ。
壁に手をついて、深く息をする。
数秒で収まった。
「……大丈夫」
誰にも聞かれていないのに、そう呟いた。
これくらい、言うほどのことじゃない。
最近は、もっとひどいことが起きている。
それに比べれば――。
⸻
朝食は、いつも通りだった。
光子郎が何かを話していて、
権兵衛が適当に相槌を打っている。
その輪の中に、自分もいる。
――まだ忘れられない
そう安心して
スープを口に運んだ瞬間、
喉が、ひくりと引きつった。
「っ……!」
思わず咳き込む。
「おい、大丈夫か?」
権兵衛が顔を上げる。
「うん、平気平気」
笑って手を振る。
いつも通りの、軽い調子。
でも、喉の奥が焼けるように痛い。
もう一口。
「……っ、けほっ」
今度は、止まらなかった。
「ヤエ?」
権兵衛の声が近づく。
「だいじょ……」
言い切る前に、強い咳が込み上げた。
口元を押さえる。
掌に、温かいものが広がる。
――赤
「……え?」
一瞬、何が起きたか分からなかった。
「ヤエ!」
権兵衛が立ち上がる音。
咳が止まらない。
喉の奥から、何度も血がせり上がってくる。
床に、赤い滴が落ちた。
「おい、嘘だろ……」
権兵衛の声が、震えている。
見られた
自分でも恐ろしかった
「ちが、これは……」
誤魔化そうとして、言葉が続かない。
血が、止まらない また嘔血する🩸
「動くな!」
光子郎が一気に距離を詰めてくる。
布を押し当て、姿勢を低くさせる。
「前屈み。呼吸、浅く」
声が冷静すぎて、逆に怖い。
光子郎の手は、迷いがなかった。
数分――
いや、もっと短かったかもしれない。
ようやく、咳が収まる。
血も、止まった。
床に残った赤だけが、現実だった。
誰も、すぐには何も言わなかった。
⸻
部屋に戻って、震える手で端末を開く。
あの医療サイト。
素人が作ったみたいな、短いページ。
――更新されていた。
前はなかった文章が、増えている。
※追記
本症例では、認識消失の進行と同時に
身体機能の低下が確認される。
めまい、嚥下障害、吐血など。
症状は徐々に悪化する。
画面を見つめたまま、息を止める。
やっぱり。
消えるのは、存在だけじゃない。
身体も、ちゃんと壊れていく。
指先が、冷たくなった。
――死ぬ前に存在が消える
それが、この病気の結末。
さっき、みんなが心配してくれた顔が浮かぶ。
でも、それもいつまで覚えていてもらえるんだろう。
「……はは」
笑ったつもりだった。
喉が、ひくりと痛んだ。
時間は、ちゃんと進んでいる。
純が消える方向にだけ…
続き⇨♡500
コメント
10件
見るのが遅くなって申し訳ない…もう予想できない神作過ぎて…このままバトエンになってしまうのか?
嘔血かぁ…嘔血!!?立ちくらみ!!?まさか…癌の症状と一緒ってことはないですよね?純君…心配だよ
純君…?嘔血?ちょっとヤバくないか? 本当に結末が予想できん… 続き楽しみっす♪