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オリバーの本音を聞き、しばらくして夕食の時間が来た。
私は厨房へ戻り、給仕する際のポイントをシェフに聞く。
「じゃ、行ってこい」
「はい」
前菜が置かれたカートをぎゅっと握りしめ、私は国王とオリバーがいる場所へ進む。
数歩進むと、横長の白いクロスが敷かれたテーブル、天井をシャンデリアが明るく照らし、壁紙はストライプ柄とシンプルなものだった。
国王とオリバーが向かいあう形で座っている。
私はカートをオリバーの後ろまで押し、二人の会話が止まるのを待つ。
「君が余の料理を食べるのは珍しいな」
「王宮料理がどういうものか、興味が湧きましてね」
「ほほう」
「今日は楽しませていただきます」
会話が途切れた。
私はオリバーの前に前菜を置く。
そして、シェフが用意した白ワインの封を開け、グラスに注いだ。
「その酒は?」
「メヘロディ産の新酒です。庶民でも手に入る安価なものですが、これが食事に合うのですよ」
「ふむ、メヘロディの酒か」
「いかがですか?」
「では、それを」
私は頭を下げ、テーブルを周り、王様の傍に立つ。
王様は手を挙げ、傍にいた男性を呼んだ。毒見役である。
私はグラスに白ワインを少し注ぎ、毒見役の様子を見守る。
毒見役は何事もなく、私が注いだワインを飲み干した。
空になったグラスに再びワインを注ぐ。
「そこでよい」
国王が止め、私は一礼してオリバーの元へ戻る。
「では、乾杯といこう」
国王がグラスを掲げる。
オリバーがグラスを重ね、カンッと乾いた音を鳴らし、夕食が始まった。
☆
二人の夕食は順調に進んだ。
国王の話にオリバーが合わせているといった様子。
ただ、戦争の話になると二人の価値観が違っているのが分かる。
「お主が戦場へ向かえば、兵の士気もあがろう」
「そうですね……」
「兵士はまだ用意できる。お主の秘術を使うと脅し、そなたが姿を少しでもみせれば、奴らは撤退してゆく」
「そうだといいのですが」
食事の会話から、国王はまだ余裕があると思っている。
どう考えてもカルスーン王国の方が苦境に立たされ、村から若い男を兵士として出さなければいけない状況だというのに。もしや、下々の生活を知らないで言っているのだろうか。
酒がまわり、調子のよい国王と対してオリバーの表情はかげってゆく。
オリバーは立ち寄った村の現状を目にしてきたばかり。それで『兵力に余力がある』と言われたらたまったものではないだろう。
謁見の間でも価値観が違うと思ったはず。
(だからオリバーさまは『決着をつける』と仰ったのね)
オリバーは王様の言う通り、戦場へ向かう。
そして前線へ向かい、戦死する。
だから、秘術の手がかりを知ったとしても戦場へ向かうことを先延ばしにしたりはしない。
戦場の凄惨さを知り、行動に動かさなければいけないと責任があったのかもしれない。
(やはり、オリバーさまが戦場へ向かわれる前に秘術についてお伝えしなければ!)
私は食事をするオリバーを見て、ぎゅっと決意を固めた。
☆
王城から屋敷へ戻った数日後に、オリバーは使用人とメイドの全員に戦場へ出兵する意を伝える。
そして、命を落とし、私は六度目の【時戻り】を始めるのだ。