テラーノベル
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人が多すぎる。
改札を抜けた瞬間、藤澤は足を止めた。
押し寄せる人の流れ、ぶつかる肩、重たい空気。
息が、うまく吸えない。
(……ちょっと無理になってきたかも…)
視界が少し揺れて、藤澤はその場から離れるように壁際へ寄った。
けれど、それでも人の気配は消えない。
気づけば、そのまましゃがみ込んでいた。
「……はぁ、」
情けない声が漏れる。
こんなことで動けなくなる自分が、嫌になる。
――だから無理なんだよ。
ふと、過去の言葉がよぎる。
夢を語った時に笑われた、あの瞬間。
アーティストになりたいなんて。
そんなの、こんな自分に無理に決まってる。
「大丈夫ですか?」
ふっと落ちてきた声。
顔を上げると、ギターケースを背負った二人の男性がこちらを覗き込んでいた。
どこにでもいそうな通行人、でも少しだけ気にかけてくれているような距離感。高校生くらいだろうか
「顔色、やばい…あ、悪いですよ」
後ろの男が言い直す。
敬語だけど、少しだけ砕けた話し方。
藤澤は咄嗟に目を逸らす。
「……だ、大丈夫です」
少し噛んだ。
全然大丈夫じゃないのに、そう言うしかなかった。
すると目の前の男が、少し困ったように笑って手を差し出す。
「いや、その…大丈夫には見えないので」
やわらかく、様子をうかがうような言い方。
「立てますか?」
一瞬、迷う。
でも――
藤澤はそっと、その手を取った。
ぐっと引き上げられて、体が軽くなる。
「……ありがとうございます」
小さく頭を下げると、後ろの男が少しほっとしたように息をついた。
「よかった…びっくりしますよね、急に声かけられて」
「すみません、つい…」
「僕は大森元貴。で、こいつ若井」
「どーも」
軽く手を挙げる若井。
藤澤は少しだけ戸惑いながら口を開く。
「……藤澤涼架です」
それだけ名乗ると、大森は「ふーん」と頷いた。
「無理しないでくださいね。人多いの苦手ですか?」
図星だった。
藤澤は少しだけ視線を落とす。
「……まあ」
「じゃあちょっと外出ますか?」
さらっと言う。
「ここよりマシなとこありますし」
断る理由も、見つからなかった。
⸻
駅の外は、少しだけ静かだった。
ビルの隙間を抜ける風が、熱くなった頭を冷ましていく。
近くのベンチに腰掛けると、さっきまでの息苦しさが嘘みたいに引いていった。
「落ち着きました?」
大森が隣に座りながら聞く。
藤澤は小さく頷いた。
「……さっきは、ありがとうございます」
「別に大したことじゃないですよ」と大森
「藤澤さんってさ、なんかやってる?」
「……え?」
「楽器とか」
ドクン、と心臓が鳴る。
どうしてそれを、と思った。
藤澤は少しだけ迷ってから答える。
「……フルートと、ピアノ」
「へえ」
若井が興味ありげに身を乗り出す。
「ちゃんと音楽やってんじゃん」
「別に、ちゃんとじゃない」
すぐに否定する。
「趣味みたいなもんだから」
その言い方に、大森は一瞬だけ黙った。
「……ほんとに?」
静かな声だった。
藤澤は言葉に詰まる。
本当は、違う。
“趣味”なんて軽いものじゃない。
でも――
「……」
言えないまま、視線を逸らす。
すると、若井がぽつりと言った。
「俺らさ」
「中学ん時から一緒でさ」
ギターケースを軽く叩く。
「ずっとこれやってんの」
大森も続ける。
「アーティストになりたいって思ってる」
その言葉に、藤澤の目が揺れた。
「……バカに、されないの」
思わず出た本音。
若井は一瞬きょとんとしてから、笑った。
「されるに決まってんじゃん」
「普通に」
大森も苦笑する。
「でもさ」
少しだけ前を見て、続けた。
「それでやめる理由にはなんないんだよね」
風が吹く。
藤澤の中で、何かが引っかかる。
「……俺は」
やっと、声が出た。
「やめようと思ってた」
小さな告白だった。
消えそうな声。
でも二人は、ちゃんと聞いていた。
大森は少しだけ笑う。
優しい、でも真っ直ぐな顔で。
「じゃあさ」
藤澤を見る。
「やめる前に、一回ちゃんとやってみれば?」
その言葉は、不思議と軽かった。
無責任でもなく、重すぎもしない。
ただ、まっすぐだった。
次回♡500
コメント
2件
通知来た瞬間驚きましたよ 、まさか尊敬様から僕の案が参考にされるなんて.....まじで嬉しいです ! 今日嫌な事ばっかでしたがこの小説のお陰で立ち直れそうです ! リクエストに応えて下さりありがとうございます 。毎日五回以上は小説見返してます 、笑自分のリクエスト通り過ぎてびっくりしちゃいました 。 ハート頑張ってこれから連打しなきゃですね これは 。