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世羅 鈴🎨🎤
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#ヒューマンドラマ
柘榴とAI

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店の客が何人かこちらを見た気がしたが、どうでもよかった。
楓の声が、真っ直ぐ俺に向かっていたからだ。
「はははっ、そんなハッキリと」
将暉が吹き出す。
場の空気に乗じて笑ってるが、俺は笑えなかった。
「え……」
何が起きてるのか、理解が追いつかない。
目の前で、楓が俺を睨みつけていた。
頬が赤く、目は潤んで、それでもまっすぐに。
胸がきゅうと締めつけられる。
ああ、まただ。
俺は何度この目にやられてきたんだ。
その瞬間、楓がグラスを手に取り、テーブルのボトルに手を伸ばした。
「ちょっ、楓くん、そんな飲んだら…っ」
慌てて止めようとした。
だが楓は俺の手を遮るようにして、睨む。
目が真剣すぎて、息を呑んだ。
「仁さん……!!」
声が震えてる。怒ってる、のか?
「な、なに?」
俺は、問い返すしかなかった。
酔ってるのか、それとも…
いや、これは本音だ、楓の顔がそう語ってる。
「仁さん…最近、全然会いに来てくれましぇんよ ね」
「……あ、え?」
不意打ちすぎて、間抜けな声が出た。
楓の勢いは止まらなかった。
「花屋!前まで毎日来てくれたし、なんなら週4で来てくれてたじゃないですか…」
その目は、まるで子供みたいにまっすぐで、泣きそうだった。
胸の奥がずきんと疼いた。
ダメだ、まただ。
こういうの、俺に向けられる顔じゃない。
期待しちゃダメだって、何度も言い聞かせてきたのに。
「……ちょっと、最近忙しくてな」
口をついて出たのはしどろもどろの言い訳だ。
俺は嘘をついている。忙しかったわけじゃない。
きみが、俺を「α」として見てないってわかったから、距離を置こうとしただけだ。
そうしないと、また気持ちが漏れそうで、危うかった。
「仁さん今日は来るかなーって、俺、ここ数日も待ってたんですよ……」
「……それ、本当?」
自分でも声が震えているのがわかった。
期待するな、恋だと思うな──
そう言い聞かせてきたのに
楓の本音が俺の心を打ち抜いていく。
「本当です…!それにでふよ、飲みだって減りました!……忙しいの分かるけど、仁さんと呑む機会減ってから、なんか寂しいです…っ」
〝寂しい〟
その一言で、俺の中の何かが崩れそうになった。
楓が、俺に「寂しい」と言った。
けど、それは恐らく”恋”じゃない。
俺が期待していい類の好意じゃない。
楓の“寂しい”は友達を失うような寂しさであって、俺が望む意味のそれじゃない。
「寂しいって……俺がいないだけで?」
そう問いながら、口の中が渇いた。
期待したらダメだと分かってるのに、心がどうしようもなく反応してしまう。
「なんかわかんないけどそうなんです、それに俺気づいたんです……!仁さんのこと全然知らないのかもって…」
「俺の、こと……?」
思わず声が漏れる。
「そう…仁さん…たまに苦しそうな顔する…っ、俺の知りえない顔もしゅるし……」
楓が何を言おうとしているのか
分かるようで分からない。
ただひとつだけ確かなのは、楓は真剣だということ。
酔っていても、心の奥にある言葉を今ぶつけてきている。
「だから、仁さんのこともっと知りたいです…何が好きだとか苦手な食べ物とか、好きな音楽とか、趣味、とか」
楓は俺を見つめながら、赤くなった顔でそんなことを回らない口で言ってきて
それがあまりにも可愛かった。
酔ってるだけでも可愛いのに、とろん顔をした好きな男に「もっと知りたい」なんて言われて
未だ理性を保てている自分を褒めてやりたいぐらい
それぐらい、目の前の生物が愛らしくて仕方ない。
「楓くん、そんなふうに…思ってたんだ」
俺はどうしていいのかわからないまま見つめ返し
平常心を装ってそう聞き返すと楓はかすかに頷く。
「そうれす……おれ、もっと…じんしゃんと仲良 くなりたいん、です…けお……っ」
俺はあまりの愛おしさに深くため息をついて
「まじでなんなんだこの生物……っ」
と噛み締めるように呟いてしまった。
「じんしゃん……?」
楓は潤んだ瞳で不思議そうに見つめてくる。
かと思えば、そのままテーブルに突っ伏し、楓は穏やかな寝息を立て始めた。
グラスに残った酒をゆっくりと傾けながら、眠る楓を眺める。
たぶん、俺の独り言も楓の耳には届いていない。
酔い潰れる寸前の意識では、俺の声なんてノイズに過ぎなかったはずだ。
俺の視線には、楓の無防備な寝顔
そして、たった今見せてくれたひどく愛おしい表情だけが、はっきりと焼き付いていた。
俺はすぐに、確信犯であろう瑞希の方に目を向けると、俺を面白がるようにニヤけてやがる。
「よっしゃ録画完了〜!!今度あったとき見せて やーろ」
瑞希はニヤニヤと笑いながら、スマホをヒラつかせる。
(ああもう、本当にコイツらは……)
俺は頭を抱えて、ため息をついた。
そんな俺の様子を楽しそうに見ていたのは将暉だった。
「じんってば顔真っ赤じゃん、楓ちゃんの酔い移ったんじゃな~い?」
将暉はそう言いながら、俺の頬を突いてくる。
俺はその手を払いながら、首を横に振った。
「……ほんと、揃いも揃っていい性格してんな」
◆◇◆◇
…解散後
俺は、楓を連れて店を出る。
俺は文字通り酔い潰れた楓をおんぶする形になり、アパートへ向かって歩き出した。
本当なら、タクシーを呼ぶところだが
無防備で可愛い楓を独り占めしたい、そんな欲求に突き動かされていた。
「んっ……」
楓が小さく申くが、起きる気配はない。
すやすやと俺の背中で眠る楓の体温が背中に伝わり、くすぐったい。
「……馬鹿だな、俺」
自分からボロを出し、忘れてくれ、とまで言って制御したのに
それでも今だけは
この温もりを独占できていることが嬉しくてたまらなくなっている。
◆◇◆◇
重たくなった楓を背負い、夜風が心地よい静かな道を歩いていた。
楓の細い腕が俺の首にそっと回され、その体温がじわりと伝わってくる。
今日の飲み会で調子に乗って飲みすぎたのだろう、まだ酔いが抜けきっていないのか
「じんさん…?」
突然、耳元で掠れた声がした。
首筋に触れる息がくすぐったい。
「もうすぐ着くよ」
俺が応えると、楓は俺の肩越しに、きょろきょろと辺りを見回した。
夜の帳が降りた住宅街は、ほとんどの家の明かりが消えて、街灯のオレンジ色の光が遠くを照らすばかりだ。
酔眼には、何もかもがぼやけて映るのかもしれない。
迷子になった子供のように不安げな様子に
思わず背中の楓を抱きしめ直したくなる衝動を抑える。
そんなとき
「いい匂い……」
俺の背中に顔を埋めた楓が、ぽつりと呟いた。
その言葉が、まるで熱を帯びた矢のように俺の心臓の真ん中を射抜く。
ドクン、と大きく脈打ったのを感じた。
夜の闇に紛れてくれることを願いながら、きっと真っ赤になっているであろう自分の顔を意識する。
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