第6話:コンビ戦のはじまり
日曜の朝、香波対策センターの訓練棟。
コンクリートとガラスでできた広い空間の中央に、立体的な障害物が配置されている。壁面には香波濃度をリアルタイムで映すモニター。ここは警察や防災部門も使う公的施設で、香波者の連携訓練の場だ。
拓真は黒い長袖のスポーツウェアに、濃緑のコンプレッションパンツ。肩と腕の筋肉が少しずつ形を帯び、以前より姿勢も堂々としている。
蓮はグレーのタクティカルジャケットに黒のパンツ。長身の体を無駄なく動かす様は、戦闘経験のある兵士のようだ。首元の抑制バンドはすでに外されている。
「今日は俺と組んで、動く標的を制圧する」
蓮の低い声が響く。訓練員が操作するドローンが、香波を帯びた人型ターゲットを次々と放つ。青や橙の波を撒き散らしながら、障害物の間を素早く移動していく。
蓮が一歩踏み出すと、無香域が一瞬で広がり、ターゲットの波が鈍る。
「今だ、右!」
拓真は蓮の声に反応し、胸の奥に決意を込める。緑が黄に、橙を経て鮮やかな赤に変わった瞬間、右腕から衝撃波のような香波を放つ。赤波がターゲットを包み、動きを止めた。
「よし、次は左二体!」
今度は二方向同時。蓮が片方の動きを封じ、拓真はもう一方へ走る。呼吸を乱さず赤を維持し、膝下に狙いを定めて波を叩き込む。
ターゲットが崩れ落ち、モニターの濃度が一気に下がった。
「……やれるじゃねえか」蓮がわずかに笑う。
「お前が波を潰してくれるからだよ」拓真は息を整えながら答える。
施設の外では、親子連れや若い香波者たちが見学していた。赤香波を放つ瞬間、小さな子どもが「すげぇ!」と声を上げるのが聞こえる。
拓真はその声に胸が熱くなった——今までの自分では考えられない光景だった。
蓮が肩を軽く叩く。
「この調子でいけば、街の現場にも出せる」
拓真は頷き、視界に残る赤い波を見つめた。
——これが、自分の戦い方だ。