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──モンスター領主は私を睨みつけている。
「さて、鬼の女よ……
どう始末してやるか!?ぐははー……」
領主が不気味に笑う。
「えっと……ぁッはは……
あー怖い怖い………辰夫!」
私は領主への警戒はそのままに、横目で辰夫に声をかけた。
「はい!全力でサポートさせていただきますぞ!」
辰夫が即座に応える。
「エスト様の気を引いて。理由は分かるな?」
私は小声で辰夫に指示を出した。
「……なるほど。わかりました」
私の意図を察した辰夫は、エスト様に話しかける。
「エスト殿。ち、ちょっと相談があるのですが……」
「なになに?辰夫!?
今じゃなきゃダメなの?
お姉ちゃんのサポートしないと!?」
エスト様が慌てた声を出す。
「あの……実は……うーん……
あ!そうそう、バイト先に最近ちょっと気になる娘がいまして……」
「!?……なになに!?
恋バナ?恋バナ?早く!早く!」
エスト様が食いついた。
辰夫はそのまま、エスト様を端へ誘導していく。
ッ……はははッ!辰夫、上手い。
小娘、ほんとチョロい。大好きだわ。
私はニヤつきながら、ちょっとだけ心配になった。将来が。
*
「……よし!辰美は私と一緒にッ!魔法を放てッ!」
私はエスト様と辰夫の恋バナの様子を横目で見ながら、
辰美に指示を出した。
「はいッ!ファイアアロー!!!!!」
辰美が魔法を放つのを確認し、私は魔法を合わせた。
「よし!ライトアロー!!!!!」
領主の左右から魔法が襲う!
「……ぐ……左右から……避け……くそッ!」
ボンッ!!!ドンッ!!!
領主は左右から魔法を被弾し、体制を崩した。
「ぐっ……がぁ!」
領主が苦しげに声を上げる。
「え!?サクラさん?今のは光魔法?……ゆ、勇……」
辰美が驚いて勇者と言おうとする。
「説明はあとね」
私は言葉を遮るように辰美の肩をポンと叩き、ウィンクをした。
「ジルにも後で説明するから!とりあえず今は動くな!」
領主の隙を伺い、
今にも飛び出しそうだったジルにも指示を出した。
「は、はい!わかりました!」
ジルが慌てて返事をする。
*
私は体制を崩した領主を確認すると、
近くにいた“手頃な辰美”の両足を掴んだ。
ガシッ!
「え?は?なッ……嬉し……
な!なんですかーーーーー♪」
辰美は慌てたが嬉しそうに叫んだ。
私はそんな辰美を見てニヤリと笑ってから領主に叫んだ!
「……ふっはっはーーー!喰らいなさい!
私と辰美の合体技!【ビックバン☆辰美アタック!】」
辰美に回転を加えて領主に投げつけた!
「きゃあー!あ!ありがとうございますぅうう♪」
何故か喜ぶ辰美が領主めがけて飛んでいく!
ギュルルルルルッ!!!!!
「そして……避けられないように……
念のため【フラッシュ!】」
慎重で美しい私は光魔法で目眩ましをした。
ピカッ!!!!!
「ぐわっ!」
辰美の背後が激しく光り、領主は目を抑えた。
「領主さん!危なッ…いーーーーーィッ!!!!!」
ドンッ……!!!!!
辰美は叫びながら領主に衝突した。
「ぐぁッ!!」
無事に辰美は領主に命中し、領主は大きく吹き飛んだ。
そのまま領主の体は、大理石の階段を転がり落ち、
一段低い位置にある「噴水広場」へと叩きつけられた。
*
「よし! チャンス! トドメよ!」
私は勝利を確信し、駆け出した。
しかし──
ピタッ。
私は、階段の一段目で急停止した。
目の前には、下へと続く長い大理石の階段。
段数にして、約二十段。
「……あ?」
足が、出ない。
プルプルプル……
生まれたての子鹿のように、膝が震えだした。
「……降りられない」
そうだ。思い出した。
この世界に来てから何故か下の階段が怖い。
怖いというより、本能が拒否する。
上りは“筋力”で重力をねじ伏せればいい。
だが下りは……“重力への降伏”と
“繊細なブレーキ制御”が必要だ。
今の私のステータスに、ブレーキなど実装されていない。
「くっ……なぜ……なぜ!
バリアフリーじゃないのよ……ッ!」
私が階段の上で硬直していると、
下で領主がヨロヨロと立ち上がった。
「ぐぅ……貴様、なぜ追撃してこない……?」
領主が怪訝な顔で私を見上げる。
そして、私の震える膝を見て、ニヤリと笑った。
「ははぁ……まさか貴様……
『高所恐怖症』か?
それとも……そこから降りられないのか?」
「うっさい! 平地に来なさいよ!
3秒でミンチにしてやるわ!」
「馬鹿め! 誰が行くか!
動けないなら、そこでただの的(マト)になるがいい!」
領主が杖を構える。
「喰らえ! ファイアボール連射!!」
ドシュッ! ドシュッ!
「ちょ、卑怯よ──ッ!?」
下からの魔法攻撃が私を襲う!
ドカーン! ボンッ!
「あつッ!? 痛ッ!? やめろ! 服が焦げる!」
私は顔を腕で守りながら、
棒立ちで魔法を浴び続けた。
「ぐはははは! どうだ鬼の女! 手も足も出まい!」
「辰夫!それ絶対相手は気があるよ!?」
「そ、そうですかな」
エスト様と辰夫の声が聞こえた。
こっちは焦げそうなのに平和か。
「サクラさん!? 今助けます!」
辰美が駆け寄ろうとするが、
「来るなァァァ! 押すなよ!? 絶対押すなよ!?」
私はパニックで制止した。
悔しい。
目の前に敵がいるのに。倒せるのに。
たかが階段ごときが、私の道を阻むなんて……!
……通れない。
進めない。
目の前にゲートがあるのに、
エラーで弾かれるこの感覚……。
──ブチッ。
私の中で、何かが切れた。
*
「……なんで……通れないのよ……」
「あぁ? 命乞いか?」
領主が笑う。
「残高は……足りてんだろうがァァァァッ!!!」
【スキル:《怪力》── 改札でSuica反応しなかった上に後ろから押されたモード】
ピキィィィィ……!!!
その瞬間、全身の血流が一気にブチ上がる。
Suicaをかざしたのにピッと鳴らず、
「ピンポーン」というエラー音と共に改札が閉まるあの絶望──
そして後ろから「進めよ」ってプレッシャー。
今の状況は、まさにそれだ。
私はゆっくりと呟いた。
待って、今焦ってるの。
わかる? 私も早く通りたいの。
お願い、押すな。
「押すなよ……って言ってんだろうがぁああ!!!!!」
《天の声:一度止まって、後退し、
再度カードをタッチし直そうとした時に
背中を押された絶望から生まれる怒り。
これは個の尊厳の叫び。
サクラの力が 1000% アップする。
原理は知らん》
「テメーの顔が、改札に見えてきたわァッ!!!」
私は階段を降りることを諦めた。
下りは無理……だが“落下”なら、いける!!
ドゴォォォォン!!!!
階段の最上段を破壊し、
私は砲弾のように空へ飛び出す!
狙うは、下の広場にいる領主ただ一人!
「ひっ!? 飛んできた!?」
領主が悲鳴を上げる。
空中で回転しながら、私は叫ぶ。
「二回タッチしたのに赤ランプ!?
……あ、これダメなやつだ」
頭の中で、
“残高あるよね?”という記憶と
“いや、昨日チャージしたっけ?”という不安が
殴り合いを始める。
「なんで反応しないの!?
機械のくせに感情あるの!?
こっち見んな赤ランプ!!」
──そして、聞こえてくる無慈悲な言葉。
「チッ……早くしろよ……」
「舌打ち!?はい今、人権が削れた!
改札を通れないヤツは、“人として扱われない”のよ!!」
《天の声:そんなことはない。》
「っさい!!またお前か天の声!!
……お前にはわかんねぇだろ!!
Suicaピンポン地獄の絶望はァァァ!!」
私は空中で体勢を整え、踵を揃えた。
「喰らえェッ!!」
ドガァッ!!
両足のドロップキックが、領主の胸板に叩き込まれる。
「ぐはッ――!?」
衝撃で領主の巨体が後ろにのけぞった、その瞬間。
私は着地と同時に、崩れた体勢のまま滑り込み――
領主の足首をガッチリと掴んだ!
「つーかまえた♡」
そのまま身体を軸にして、回転の遠心力を一気に叩き込む!!
「ふん!!!ドラゴン・スクリューぉぉおおお!!!」
「えー!辰夫、それでその子に告白したのー!?」
「いやぁ、それがまだでして……」
緊迫してるとこなのに、
後方(安全圏)からエスト様と辰夫の恋バナが聞こえた。
笑かすな。
ギュルルルルッ!!!! ドガァァァァッ!!!!
「ぐはぁ……」
領主の体が宙を舞い、噴水に叩きつけられる。
大理石の縁が砕け、水しぶきが周囲に飛び散った。
領主は地面にめり込み、動きが止まった。
私は水しぶきの中を静かに、立ち上がる。
「──改札で止められて焦ってる時に、
後ろから押された経験のない者だけが、私を責めろ」
広場に静寂が走る。
「……あーごめん。チャージしてなかったわ」
私は髪をかき上げながら、しれっと。
周囲にいた辰美とジルがぽそっと呟いた。
「……うわー……ちょっと怖かった……」
辰美が小声で言う。
「カッコいい……」
ジルが恍惚とした表情で呟いた。
(つづく)