テラーノベル
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グラウンドの陽射しは、秋だというのに刺すように熱かった。
砂が舞い、汗のにおいと混じって、空気が重たくなる。
遥は列の端で、体を支えるようにして立っていた。
体の芯がまだ冷えている。保健室での吐き気も、熱も、完全には消えていなかった。
「おい、動け。休ませてもらっておいて、そのざまか」
教師の声が、校庭の全員に届くほど大きく響く。
笛の音が鋭く鳴った。
周囲の生徒が一斉に走り出す。
遥も、反射的に足を動かした。
砂を蹴る。呼吸が浅い。
一歩ごとに、胸の奥が軋むように痛む。
息が合わない。視界が白くなる。
「そこで止まるな!」
「歩くなら帰れ!」
笑い声が混じった。
誰かがすれ違いざま、肩を強くぶつけてきた。
砂が舞い上がり、口の中がざらつく。
ふらつきながら立ち上がる。
教師が腕を組んで、無表情のまま見下ろしていた。
「お前はいつもそうだ。
体調を理由に、努力を怠る。
“できない”という言葉を、免罪符だと思ってるんだろう?」
遥は何も言えなかった。
喉の奥が、熱で焼けるように痛い。
否定すれば、また責められる。
黙れば、逃げたと見なされる。
そのどちらも地獄だった。
「なあ、先生。これ、もう一周させた方がいいんじゃないですか?」
「そうだな。君たちがこいつに“やる気”を教えてやりなさい」
笛が再び鳴る。
歓声と笑いが混ざる。
砂煙の中で、誰かの足音が迫ってくる。
遥は、ただ必死に立っていた。
もう走れない。
それでも倒れることは、許されない気がした。
「“頑張ってるふり”は、もういい」
教師の声が背中に刺さる。
「本気でやれ。それとも、“また保健室”か?」
その言葉に、周囲の笑いが弾けた。
耳の奥がじんじんと響く。
遥の視界は、熱と痛みでぐにゃりと歪む。
砂の色と空の白さの区別が、もうつかなくなっていく。
──息が、続かない。
身体よりも先に、心が軋んでいくのがわかった。
けれど、止まることも、許されなかった。
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