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翌週、花梨が出社すると、営業部第二課の女子社員たちが何やら騒いでいた。
デスクにバッグを置いてから、花梨は隣の席の小林美桜に尋ねる。
「おはようございます。何かあったんですか?」
「あ、水島さんおはよう。それが大変なのよ! 先日ここへ来た京極君彦さんがパパラッチされたらしくて」
「え?」
花梨は京極と萌香が撮られたのかと思い、驚いた。
「で、相手は誰だと思う?」
「え? それって……」
花梨が萌香の名前を出そうとした瞬間、美桜が興奮気味に言った。
「女優の南野愛(みなみのあい)ですって! もう、びっくりよ~!」
「え?」
予想外の名前に、花梨は拍子抜けする。
南野愛は人気女優で、ドラマやCMに引っ張りだこの売れっ子だ。花梨の記憶では、まだかなり若いはず。
「え? でも、南野愛って、まだ20歳前後でしたよね?」
「19ですって! 京極さんとは20歳近く離れてるみたい。すごいわよね、意外な組み合わせで驚いちゃった」
「びっくりしました。まさか、彼がそんな若い子と付き合ってるなんて……」
「ほんとほんと。しばらくはワイドショーが賑やかになるわよ。昼休みにテレビで見なくちゃ!」
「そうですね」
花梨は、京極の相手が萌香ではなかったことにホッとしていた。
さりげなく萌香の席を盗み見ると、彼女は何事もなかったかのようにすました顔で座っている。
(ショックじゃないのかな?)
その時、派遣の二人がこちらを見た。二人が苦笑いを浮かべたので、花梨も困ったように微笑み返す。
すると、萌香が急に立ち上がり、ムスッとした表情でポーチを手にしてフロアを出て行った。
「やれやれ……八つ当たりがこないといいけど……」
花梨が小さく呟くと、突然背後から低い声が響いた。
「誰の八つ当たりだって?」
「わっ!」
花梨は驚いて飛び上がりそうになる。
振り返ると、そこには出勤したばかりの柊がいた。
「か、課長! おはようございます!」
「おはよう。で、誰の八つ当たりが心配なんだ?」
その時、隣にいた美桜が柊に向かって言った。
「課長、これですよ」
美桜は、携帯に表示した『天才シェフ・京極君彦、人気女優・南野愛と歳の差恋愛!』という芸能ニュースを柊に見せた。
記事を見た柊は、少し驚いた表情で言った。
「京極さんはこの女優と付き合ってるのか?」
「お泊まりしてたのをパパラッチされたみたいですよ」
美桜が答える。
「へぇ……意外だな」
「まあ、これまでも派手な噂はいくつもありましたからねー。この記事を見た他の女たちが発狂しないといいですけど……」
美桜の何気ない一言に、柊と花梨は思わず目を見合わせる。
「ははっ、そうだな……」
柊はそう返すと、課長席へ向かった。
何も気づいていない美桜は、今度は花梨に言った。
「浜田様のご実家は、結局、京極君彦には売らないんでしょう?」
「はい。一ノ瀬様に売却することになりました」
「へぇ……うまくまとまって良かったわね」
「はい。一時はどうなることかと思いましたが」
「でも、購入希望者がどちらも飲食店プロデューサーだなんて、すごい偶然よね」
「はい。私も驚きました」
「でも、結果的に一ノ瀬様の方で良かったんじゃない? あの人が手掛けた店はどれも大人気らしいから」
「そうみたいですね」
「浜田様のご実家は、きっと素敵に生まれ変わるわよ」
「はい。すごく楽しみです」
「和食のお店でしょう? お店ができたらみんなで行きましょうよ」
「ぜひ!」
美桜との会話を終えた花梨は、すがすがしい気持ちで仕事に取りかかった。
午後、花梨が休憩室でコンビニのサンドイッチを食べていると、萌香が取り巻きの派遣二名を引き連れてやってきた。
萌香は花梨には気づかず、背を向けて少し離れた席へ座る。
座ると同時に、派遣二人に向かってこう言った。
「あ~、ばかばかしい。でも、本気にしなくてよかったわ。大体ねぇ、遊び人っていうのは、適当にあしらっておけばいいのよ」
花梨の耳に、強がっている萌香の声が響いてきた。
ちらりと三人の方を見ると、派遣の二人が笑いをこらえながら頷いている。
そのうちの一人が、萌香に言った。
「萌香さんが、あんなチャラい男と本気で付き合うなんて思ってませんよ」
すると、もう一人がそれに合わせる。
「そうです! あまりにもしつこいから、断り切れなくて仕方なくお食事に行っただけですよね?」
「そ、そうよ……。仕方なくつきあってあげただけよ」
「そうですよねー。あ、でも、まさか、食事した時のことをSNSとかに載せてないですよね?」
突然そう尋ねられた萌香は、ドキッとした。
「ま、まさか……そんなの載せるわけないじゃない」
実は、萌香は先週、支店長に呼ばれてSNSの件を注意されていた。だから、あの投稿は既に削除済みだった。
三人のやり取りを聞いていた花梨は心の中で呟く。
(全部みんなにバレてますよーだ)
その時、派遣の一人と目が合ったので、花梨は苦笑いをしながらアイコンタクトを交わした。
そこへ、コンビニの袋を提げた柊が休憩室に入ってきた。
彼は弁当を電子レンジで温めると、花梨の前に来た。
「ここ、いいか?」
「どうぞ! お疲れ様です。今日は外じゃないんですか?」
「今日は時間がないから中で食べるよ」
「あ、たしか一時から役職ミーティングでしたね」
「うん」
柊は弁当の蓋を開けると、すぐに食べ始めた。
その時、花梨は背筋がぞくっとするような鋭い視線を感じた。萌香がじっと二人の様子を見ている。
(そういえば派遣の二人が言ってたっけ。円城寺さんは城咲課長を狙ってるって)
その瞬間、花梨は萌香が自分に嫌がらせをしてくる理由がようやく分かった。
(なんだ、そういうことか……)
花梨が心の中で納得していると、柊が口を開いた。
「浜田様の売買がうまくいって良かったな」
「はい。私もホッとしました」
「そういえば、さっき浜田夫人から電話がきて、来週、君を連れて来てほしいと言われたよ」
「え? まだ何かあるのでしょうか?」
「何だろうな。とにかく、そのつもりで頼むよ」
「分かりました」
花梨は不思議そうな表情を浮かべながら、残りの卵サンドを口に運んだ。
コメント
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花梨ちゃんのいる所に必ず柊様現れるのね 花梨ちゃんに引き寄せられるのかしら⁇ そして萌香が花梨ちゃんへの嫌がらせ‼️そんな事すればもっと柊様に軽蔑されるのにわからない萌香!どうにもならないですね それから浜田様のお誘いは何でしょうね 気になります
怖っ😱炎上児の視線。。。 支店長ー何故クビにしてないの? そんなにご実家が怖いの? 何かやらかされて、自分の首をかけなきゃいけないかもしれないよ💦 とにかく花梨ちゃんに被害がないことを祈ります🙏
萌香は異動にはならなかったんだね 気に入った男性には全く相手にされずにイライラしてる?😩 まわりにあたったりせずに大人しく仕事をしなさい😡