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#宵闇怪奇譚
桜城
588
ほっかい広産🧂
133
明治○○年、京都、四月四日。
閉じていた桜の蕾が開き、街に春と言う季節の花が咲き誇る中で、美しも残酷な名前の持つ呪いが誕生する。
時は遡り明治時代の京都の町には様々な妖達が悪さをする中で、陰陽師と言う仕事が盛んな時代。
医療術を得意とした家系、独自で生み出した術を持つ家系、武術を極めた家系があり、様々な陰陽師家系の中でも御子柴家は有名であった。
今から語られるのは彼女の、御子柴家初代党首のとなる御子柴桜の生涯の物語である。
***
京都、豪華な日本庭園を持つ御子柴家の本家の一室で、一人の女性の鼻歌が響く。
いつものように自室に置かれたお気に入りの鏡の前で、御子柴桜は自身の薄い金髪の腰まで伸びたふわふわの髪を櫛(くし)櫛を使って整えていた。
鏡に映った色白の肌、長い睫毛の隙間から見える茶金の大きな瞳、桃色の唇、御子柴桜の容姿はとても美しく、可憐さと儚さを漂わせている。
手慣れた手付きで髪の毛をハーフアップにアレンジし、黒色の大きなリボンで結び、学校の制服である袴に着替えて、御子柴桜は念入りに確認していく。
彼女は鏡に顔を近付け、ジッと顔や髪型を確認していると、廊下からと出された襖に向かって使用人の女性から声をかけられる。
「桜様、身支度のご用意はお済ですか?」
「あ、はーい、出来ました。今、開けます」
御子柴桜は使用人の問い掛けに答えながら襖を開けると、割烹着を来た四十代の女性が部屋のまで静座をし、御子柴桜が部屋の中から出てくるのを待っていた。
「車のご用意が整いました。それと、紫乃様がお越しになっています」
使用人の言葉を聞いた御子柴桜は目を丸くし、慌てて自室に戻ると鏡で自分の容姿を確認する。
「どもこも変な所はないよね?さっきも確認したから、大丈夫だと思うけど…。紫乃が来てるとは思ってなかったもんっ」
「今のままでも、十分お美しいですよ。紫乃様も、きっと同じ事を思われます」
「紫乃の前では可愛くいたいものっ。申し訳ないんだけど、紫乃を客間に通して…」
御子柴桜は使用人の背後から現れた青年の顔を見て、口を閉じて赤くなっていく頬を手で押さえて隠す。
「学校に遅れるぞ、桜」
襟足が長い艶やかな黒髪、色白の肌に透き通った鼻、切れ長の紫色の瞳、形の良い唇から心地の良い低い声が出され、高身長の青年全身黒のスーツを着こなしていた。
彼は本城紫乃、歳は御子柴桜よりも五歳上、御子柴家の直属の護衛一家の本城家の党首を務めており、御子柴桜と主従関係を結んでいる。
本城紫乃は御子柴桜が好いてやまない大人の男、だが本人には伝えていない。
それは本城紫乃も同じで、御子柴桜の事を愛してやなまかった。
二人は思いを伝え合えば晴れて交際が始まるのだが、主従関係を結んでいる御子柴桜と本城紫乃達にとっては簡単な問題じゃないのだ。
当時の御子柴家に産まれた男性、女性は本城家以外の陰陽師家系の家の人間と見合いをさせ、結婚相手は御子柴家の人間が決めた相手とでしかさせられないと言う風習があった。
女性が見合いをした場合は男性が御子柴家に婿入りし、男性が見合いをした場合は御子柴家に嫁入りし、御子柴家の血筋を増やしていかなければならない。
最初に決めたのは誰だったのか分からないが、本城家の人間との結婚だけは禁止され、過去に本城家の人間と恋仲になった者達が居たのだが、関係がバレた数日後には姿を消されていた。
誰も彼等の末路を口にしないのは、誰かに話してしまえば自分達が殺されてしまいかもしれないからだ。
「紫乃⁉い、いつの間に部屋の前に来たの?気配がしなかったから、びっくりしちゃった」
「すまない、癖で足音を立てずに歩いていた。桜がいつまで経っても、部屋から出て来ないから迎えに来たんだろ?そろそろ学校に行く時間じゃないか?」
本城紫乃に時間を促され、御子柴桜は自分の部屋に置かれた置時計に視線を向けると、時刻は八時を過ぎていた。
「あっ、もう家を出ないと遅刻しちゃう!!!ごめんなさいっ、すぐに出ますっ」
御子柴桜は慌てて部屋に戻り、本棚の横に置かれてた学生鞄を持ち、急いで部屋を出て本城紫乃と共に玄関に向か中、本城紫乃は彼女の後ろで「やれやれ」と呟く。
本家の玄関を出ると、黒塗りの車が門の外に停められており、本城紫乃は後部座席を開けて御子柴桜を乗せてから車に乗り込み、御子柴桜が通う女学院に向かった。
御子柴桜の諸学院の送り迎えは勿論、直属の護衛をしている本城紫乃の仕事だ。
サッと後部座席で髪を治す御子柴桜を盗みしていた本城紫乃は、軽く口角を上げながら御子柴桜に声を掛ける。
「今日の髪型可愛いじゃん」
「へ?」
突然、本城紫乃に声を掛けられて、御子柴桜は目を丸くさせながら自然と口から言葉が漏れ出てしまう。
その反応すらも本城紫乃は、クスッと軽く笑いながら言葉を続ける。
「セットに時間掛かっちゃったんだろ?使用人が居る前だから、褒めれなかったけど似合ってる」
本城紫乃からの誉め言葉は御子柴桜の心を舞い上がらせる、それも簡単に。
御子柴桜の心がこんなにもときめいいる事も、恋心が揺さぶられている事も、頬を染めさせている事も、本城紫乃は知らない。
本城紫乃の言葉の一つで舞い上がってしまう、彼の運転している姿に視線を奪われてしまう、こんなにも恋焦がれてしまう。
淡い恋心を忘れようと目を閉じ、本城紫乃から貰った言葉を受け入れて返答する。
「ありがとうっ、紫乃に見てもらいたくて。ちょっと頑張ってみたの」
「そうか、毎日ありがとな。その髪型が一番よく似合っているな」
「本当?これからは、この髪型にしようかな」
「今度、新しいリボンでも見に行くか?」
「う、うんっ」
流れ行く景色を見ながら貴方との時間を楽しむ、この穏やかな時間が続けば良いと御子柴桜は心の中で願う。
ふと視線を周りに向けると、歩く人波に交じって下級妖怪が道を歩き、建物の屋根の上にも妖が人間達を観察している姿が視界に入る。
この世界には妖怪が居て、人間を襲う者や危害を加えない者と様々な妖怪達が存在し、彼女は悪さをする妖怪達の退治を仕事にしていた。
「今日も沢山居るね、下級の妖怪達が」
「無害な妖怪ばかりだと、こっちも毎日駆り出されなくて済むのにな」
「そうだね]
普通の人には妖怪の姿は見えない、霊感の強い人や陰陽師の末裔の者には見えるものらしく、幼少期の子供には妖怪が見えてしまう場合もある。
京都の街を仕切る御子柴家に悪用退治を依頼する者は多く、御子柴桜は毎夜毎夜、妖怪退治に駆り出され、専属護衛である本城紫乃も同行していた。
自分の妖怪退治に本城紫乃を連れて行く事を、御子柴桜は申し訳なさを感じており、少しでも妖怪が悪呪医を働かない事を願うばかり。
「桜、学校に着いたぞ」
「ありがとう、紫乃」
本城紫乃は先に車を降り、御子柴桜が乗っている後部座席のドアを開けて、車から降りた御子柴桜は振り返って手を振った後、女学院の正門を潜る。
御子柴桜の姿が見えなくなるまで見送り、本城紫乃は車を走らせ、女学院を後にした。
「おはよう御座います、桜さん」
「おはよう御座います。あら…、ちょっと失礼します」
挨拶して来た女子生徒の肩を優しく払うと、女子生徒は不思議そうな顔で御子柴桜の事を見つめて来た。
視線に気が付いた御子柴桜は優しく微笑み、女子生徒の不安を取り除く言葉を吐く。
「急に触れて、ごめんなさい。肩に埃が付いていましたので…」
「まぁ、そうでしたの?ありがとう御座います、桜さん。助かりましたわ」
「いえいえ、お礼を言われる事はしていませんわ。お気になさらないで下さい」
「これから職員室に行くところでしたの。桜さん、失礼しますわ」
「えぇ」
女子生徒の背中が小さくなってから、指で摘まんでいる一つ目の小さな小鬼に声掛ける。
「悪さをしたら駄目だよ?小鬼さん」
「ごめんなさい…」
一つ目の小鬼が申し訳なさそうに謝罪をしてきたので、腰を低くして地面に下ろしてあげると、一つ目の鬼は中庭の方に走って行った。
以前は御子柴桜に恨みを持った妖達が学院に来ていた時があったが、今は何故かそう言った妖怪達を目にしていない。
御子柴桜は好意で近寄らせないようにしてくれている事を知っているし、その人物とは学院がある日は食事を共にしていた。
良い妖怪が居れば悪い妖怪が居るが、いつも御子柴桜の事を見守っている妖怪もおり、その妖怪とは昼休みの昼食の時に顔を合わせている。
昼休みを知らせるチャイムが鳴り、御子柴桜は女子生徒に声を掛けられないように、そそくさにお弁当を持って中庭に向かう。
速足で中庭の奥に進むと、大きな木を見つけて、ハンカチを引いてから御子柴桜は話しながら腰を下ろす。
「カラちゃんでしょ?学院に妖怪を近付けないようにしてるの」
バサバサッ!!!
御子柴桜の頭の上から黒い羽がヒラヒラと舞い落ち、気の上から降りて来たのは御子柴桜と同じ歳くらいの少年で、綺麗な黒髪を靡かせて現れる。
少年の背中から大きな黒い翼が生え、赤い瞳を宿している少年は人間ではなく妖怪だ。
「お前はだけだぞ、俺の事をカラちゃんって呼ぶのは」
「鴉天狗のカラちゃんって、良いあだ名だと思うけど…。嫌だったら、呼び方を変えるよ?」
御子柴桜の言葉を聞きながら、鴉天狗は翼を隠し隣に腰掛け、御子柴桜に手を差し出す。
「まぁ…、もう慣れたから良いけど。それよりも、あれは?」
「あぁ!はい、どうぞ。カラちゃんのお弁当」
そう言って、御子柴桜は鴉天狗の好物である木苺の入ったお弁当箱を渡すと、鴉天狗の表情が明るくなる。
「これこれ!頂きます」
お弁当箱の蓋を開けて、鴉天狗はヒョイッと木苺を一粒口に入れた。
「あたしもお弁当食べよーっと、いただきます」
御子柴桜と鴉天狗が出会ったの半年前、御子柴桜が妖怪退治をしていた際に、危ない場面の所を助けてもらったのが二人の出会いであった。
その際、怪我を負った御子柴桜の手当てをし、お礼に好物と言っていた木苺を渡しに出会った場所に通い始めた事で、人間の中で御子柴桜にだけが気を許すように。
鴉天狗は学院に通っている時に、御子柴桜に妖怪が近付かないように見張ってくれるようになったのだ。
本城紫乃も鴉天狗の存在は知っており、御子柴桜に害が無いを知って学院の生活を任せている。
「そうだ、桜の所に変な妖怪は来てねーか?俺が見張ってるから大丈夫だと思うが」
「カラちゃんのおかげで、学院生活が平和だよ。ありがとう、カラちゃん」
「そりゃ良かったな」
「ふふっ!」
クスクスと笑い出す御子柴桜の事を見た鴉天狗は、不思議そうな顔をして御子柴桜の顔を覗き込んだ。
「何?」
「何にもないよー、カラちゃんは優しいなって思っただけだよ」
「あ、桜。蛇の妖怪に気を付けろよ」
「蛇?何かあった?」
「八岐大蛇が京都に来たらしいって情報を得てな、上級妖怪だ。一応、桜の耳に入れとこうと思って。帰ったら、紫乃にも伝えとけよ」
御子柴家の書物部屋に中にある一冊の中に、八岐大蛇の事を書かれてい物を読んだ事があった事を思い出す。
鴉天狗が警戒しろと言うくらいだ、八岐大蛇は凶悪な妖怪なんだと御子柴桜は頭の中に入れる。
「分かった、紫乃に伝えておくね」
「お前の身に何かあってからじゃ、遅いからな」
雑談をしながら昼食を終わらせ、午後の授業を終わらせて向かう中、御子柴桜の顔付きが変わって行く。
学院の校門前には本城紫乃の車ではない車が停車しており、スーツを着た御子柴家の男性の使用人と本城紫乃の二人が立って御子柴桜の事を待っていた。
本城紫乃と御子柴家の使用人が迎えに来る時は、御子柴桜を指名での任務が入っている時だ。
「桜様、お帰りなさいませ」
業務的な挨拶をする本城紫乃の言葉を受け流し、御子柴桜は冷たい表情のまま言葉を掛ける。
「場所は?」
「車に乗りながらお伝えしますので、お乗り下さい」
「分かった」
御子柴桜の返答を聞いた本城紫乃は助手席のドアを開け、後部座席に御子柴桜を乗せてから。本城紫乃も後部座席に乗り込んだ。
男性の使用人は車を運転しながら、御子柴桜に任務内容を話している中、本城紫乃は白い妖銃(真白)に弾丸を装弾していく。
「御子柴家が管理している小さな神社ですが、鬼の集団が現れ、人間達を襲っているので御子柴家に要請が入りました。神主は桜様をとご指名されました」
「級だと、どれくらいの妖怪なのか分かってるの?」
「はい、中級の妖怪ではないかと」
「中級ね」
「桜様、刀をお持ちしておきました」
そう言って、本城紫乃は一本の赤い布に巻かれた刀を御子柴桜に渡し、受け取った御子柴桜は布に巻かれていた紐を解いた。
布が剥がされた一本の刀は御子柴桜が使用している妖刀の血桜であり、御子柴家の中でもこの妖刀を扱えるのは御子柴桜だけだ。
妖刀血桜、見た目は普通の刀だが、意志を持っており刀が主を選び、自身に触れる事を許可する。
御子柴家の人間が血桜に触れようとしても、目には見えない結果に弾かれて触れる事が出来なったが、御子柴桜だけは簡単に触れる事が出来た。
なので、この妖刀は御子柴桜にしか扱えない代物なのだ。
車が神社の鳥居付近に停車し、運転席に座っている使用人の男性が御子柴桜と本城紫乃の二人に視線を向ける。
「到着致しました、桜様」
本城紫乃が車を降り、御子柴桜が乗っている方に回ってから後部座席のドアを開けた。
「桜様、どうぞ」
「ありがとう、紫乃」
差し出された手に自身手を重ねて車を降りると、御子柴桜と本城紫乃の前に血塗れの袴を着た神主が現れる。
「さ、桜様!!!お、お待ちしておりましたっ!今も鬼達が暴れていましてっ」
「落ち着いて下さい」
慌ている神主に声を掛け、御子柴桜はじっくり神社の中を見る為に鳥居を潜ると、血生臭い匂いが鼻を通った。
この神社で働いている巫女達は悲惨な死体姿となって地面に転がり、手や足は食われた痕があり、体の臓物がむりやり引き出されている人もいる。
鬼達は御子柴桜と本城紫乃の存在に気付かずに、巫女の体を貪り食っている姿は嫌悪感を沸かせていく。
「桜、今回の鬼達はやり方が汚いな」
「女の人の血肉を食べるのが趣味なのかもね、さっさと片付けよう」
「ギャハハハハ!もっとだ!もっと女の血肉を寄越せ!!!」
「おい、あそこに女がいるぞ!!!」
一匹の鬼の言葉を聞き、鬼達がグルンッと首を曲げて御子柴桜と本城紫乃事を視界に入れる。
「女が居るぜ!!!」
「しかもかなりの美人。美人の血肉は美味いんだ…」
パァァァァン!!!
ブシャアアッ!!!
銃声の音が神社の中に響き渡り、御子柴桜の事を色目で見ていた一匹の鬼の頭が吹き飛び、首から勢いよく青色の血を噴き出す。
胴体が力なく地面に倒れ、本城紫乃の構えている妖銃の銃口から灰色の煙が出ている。
鬼達は仲間の一匹がやられたのは本城紫乃の所為だと分かり、鬼達は一斉に本城紫乃に向かって暴言を吐き始めた。
「テメェ、いきなり現れて何しやがんだ⁉」
「こんな事して生きて帰れると思うなよ!!!お前等まとめて、ぶっ殺してやる!!!」
「あー、うるせぇ」
本城紫乃はジャケットの胸ポケットから煙草を取り出し、口に咥えて手慣れた手付きでマッチで火を付け、煙を吐き出しながら言葉を吐く。
「桜に手を出そうなんて、出せると思ってんのか?この俺が居るのに」
「紫乃…」
自分の事を大事に思っている言葉を本城紫乃の口から聞けて、御子柴桜の心が高鳴ってしまう。
彼にとっては些細な言葉だろうが、御子柴桜の感情を搔き乱すのは簡単な事。
本城紫乃の挑発するような言葉を聞いた鬼達は、顔を真っ赤に染め上げて牙を剥き出しにする。
「何だっ、コイツ等っちまえ!!!」
そう言って、鬼達が一斉に御子柴桜と本城紫乃に襲い掛かった。
コメント
1件
やっぱり百はなさんの描く世界観、すごく好きです…明治の京都ってだけで、もう情緒が違うのに、桜と紫乃の主従関係でありながらお互いに恋してる感じが切なくてたまらないです。髪型を褒めるシーン、心臓がきゅってなりました。最後の鬼退治も、紫乃の「俺がいるのに」に痺れました。カラちゃんとの穏やかな時間も好きです。続きが気になります…!