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そうしてゲームは始まる。ダチュラは孤児院で育ったため、貴族でありながら領民の生活がいかに苦しいかを知っていた。
そこで彼女は自分の立場を利用し、貴族たちの腐敗を暴くことで国を救った。その過程で王太子殿下やその側近の貴族たちと急速に距離が縮まり、恋に落ちる。そんなゲームだった。
このゲームの攻略法は二通りあり、一つ目は、積極的に側近や王太子殿下のご機嫌伺いをして彼らと親密になること。そうすると、彼らは勝手にダチュラの思想に賛成して腐敗した貴族たちを正し、結果として救国することになる。
最後に一定以上親密になった攻略対象全員から告白され、ダチュラが好きな相手を選びその相手とのエンディングを迎えるという方法。
もう一つはダチュラ自身が腐敗しきった貴族たちの横領などの証拠を集め、フラグを立てイベントをクリアする。そして貴族を追い詰め、国政を正すことにより救国する。その姿をそばで見ていた攻略対象や王太子殿下が、ダチュラに恋して告白し、ダチュラが好きな相手を選び恋愛エンディングを迎えるという方法だ。
そのゲームの中でのアルメリアは、ダチュラのライバルで王太子殿下の婚約者だった。その上アルメリアはその立場を利用し、国の金を使いまくりダチュラを苛める悪役令嬢なのだ。
ダチュラが王太子殿下の攻略をするためには、アルメリアと一定の距離を保ち、親密にならずにいると発生する『アルメリアが国のお金を散財した証拠を発見する』というイベントを発生させなければならない。
そのイベントをクリアすると断罪フラグが立ち、アルメリア断罪イベントが発生するのだが、これが王太子殿下を攻略するときの必須イベントだった。
だが、王太子殿下は仲良くならずにいる方が難しいぐらい普通に過ごしているだけでも攻略できる対象だった。狙って嫌われでもしないかぎり断罪イベントは必ず発生する。
逆に、ダチュラは悪役令嬢のアルメリアと仲良くなることもできる。ある程度アルメリアと仲良くなり、王太子殿下と仲良くならずにいると、アルメリアとの友情イベントが発生する。それらをクリアすると、アルメリアがダチュラに今まで嫌がらせしたことを心から謝罪し、親友になるイベントが発生するのだ。
そのイベントが起きると王太子殿下との恋愛フラグが折られ、ダチュラはエンディングロールの中で、王太子殿下とアルメリアの結婚式に出ることになる。
普通にやっていると必ず悪役令嬢が断罪されるルートとなる。
それに攻略対象全員を落とせるゲームにおいて、攻略対象とライバルを天秤にかけなければならないのは、かなり痛い。
現にアルメリアも前世では、攻略的にどうしてもライバルと友情イベントを起こす気になれず、スチルを埋めるためだけに一度悪役令嬢を攻略したことがあっただけだった。
悪役令嬢が断罪される確率の高いゲームの世界に転生した今、このまま手をこ招いていては断罪される可能性の方が高いだろう。
とにかく断罪を避けるために、手を尽くさねばならない。そう思った。
今のアルメリアは、ダチュラの恋愛の邪魔をする気もなければ、まして嫌がらせなどするわけもなかった。だが、王太子とダチュラが親密になったとき、どんな理由で断罪されるかわかったものではない。とにかくダチュラには近づかないようにしようと心に決めた。
まずは、王太子殿下の婚約者にならないようにすることがアルメリアの目下の目標となった。
そもそもなぜ、王太子殿下とアルメリアが婚約したかというと、単純にクンシラン家が貧乏だったからである。
クンシラン家は公爵家の中でも古くから続く名家だ。国王は資金援助をする代わりに、アルメリアを婚約者として向かえることで名門の公爵家からの血筋を取り入れ、地位を磐石なものにしたかったようだ。
そして、今まで贅沢をしてこなかったアルメリアは、婚約したことで国のお金を使えるようになると、欲に目が眩み横領し思う存分散財した。
そう、全てはアルメリアの性格の悪さと、クンシラン家が貧乏だったことが招いた不幸だった。
そこでアルメリアは、貧乏脱却のために手っ取り早くお金を稼ぐ手だてを考えることにした。
それにお金があれば、シルやルクたちを探し非道な教会から救うこともできる。幸い前世の記憶があるのだから、自分に優位に運べることがあるはずだ。
そんなことを考えているうちに、庭に植えてある観賞用の檸檬の木が目に入った。そして、歴史書の中にロベリア国が雨の少ない国、と書いてあったことを思いだす。
これは檸檬の栽培に使えるかもしれない、そう思った瞬間あることを思い付いた。それは壊血病のことだった。
アルメリアは、すぐさま船乗り病を調べることにした。船乗り関係の本を探して調べても良かったが、手っ取り早くこの屋敷の一番古株で物知りな執事のエピネに、船乗りの間で流行っている病がないか尋ねた。
「船乗り病ですか? 確かにございますが、お嬢様に話せるような内容ではございません」
アルメリアは首を振る。
「エピネ、|私《わたくし》に対してそんな配慮をする必要はありません。正確に答えてちょうだい。その病気とは、皮膚が乾燥して痣や出血があるのではなくて?」
六つの女児が言うような台詞ではないなと、アルメリアは心の中で思った。
エビネは一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに普段の穏やかな表情になると答える。
「お嬢様、おっしゃる通りでございます。最後にはいたるところから出血して……。我が領地でも、船を出しておりますが、毎年船乗り病で犠牲が出ております」
やはり思った通りだった。アルメリアは、前世の記憶の中にある、中世から近世にかけて、船乗りたちが壊血病に悩まされたというのを思い出したのだ。
症状からして、この世界の船乗り病も、壊血病で間違いなさそうである。
前世の世界でも壊血病は長くその原因がわからず、近世の後期あたりでやっとオレンジなどの柑橘類が船乗り病の予防になることに気づくまで、ずっと船乗りたちを苦しめた病だった。この世界も壊血病ではだいぶ悩まされているに違いない、そう思ったアルメリアの勘は当たっていた。
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