『それは、少女に呪われた故の力だ』
昔、考えたことがある。パーティーで殺すくらいなら、葬式でも襲えば確実に全員殺せるな…と。私が殺した貴族様の葬式で、似たような人を全員殺せばいいと考えたことが1度だけある。まぁ、やらなかったけど。理由は簡単。いくら倫理観終わっていても葬式だけは襲いたくない。それは最期の別れだ。私は、家族の葬式が出来なかった。…だからこそ、なのかな?それだけは出来なかった。いくら人を殺して、いくら倫理観が終わって、いくら殺人鬼と呼ばれても何も感じなかったのに。それだけ無理だった。故に、克服も諦めた。この人生に、意味を作る方が無駄というものだ。私はこの人生をとうに捨てている。わざわざ捨てたもの拾おうなんて思わない。意味が無い。やる理由がない。それは、1度捨てた物だ。もう、私のものじゃない。私が所有権を持つ訳でもない。
なんでいきなりこんな意味わからない事を考えているのかと言うと、まぁ理由は簡単である。私が考えることなんて簡単なことばかりだ。なにせ私がそれしか考えられない。何を隠そう、私が目標としていた貴族様の最後の1人が、パーティーをするらしい。なんとびっくり、今回は「調停者」様ではなく「アシッド教」から護衛を雇ったらしい。故に、今回のパーティーを開けたらしいけど。
だから、考えていた。この貴族様を殺したらなにをしようかなって。そこまで考えて、さっきの思考に戻る。捨てた人生だ。拾おうなんて思わない。…だったら、私はどうなるのが正解なのだろう?死ぬ?そんな、簡単な話でいいのかな?…いや、言いわけが無い。もっと苦しまないと。もっと絶望に落とされないと。怖い?何を、今更言っているの?そんな感情、捨てた方が楽。…楽なら、捨てない方がいい?苦しむ為なら、拾うの?…だめだ。考えるのを辞めよう。私らしくない。最後まで、死ぬその瞬間まで、私らしく生きよう。それまで、”楽譜”の蒼音の名前に、血を塗ってみよう。蒼く無くなるまで。
パーティーは夜、なんて思っていたのだけど今回は違うらしい。なんと、夕方からやるらしい。明るければ来ないと思ったのかな。それくらいで怯むなら殺人鬼なんて辞めてるよ。流石に舐めすぎだ。痛い目合わせてやろうかこの野郎が。
……さて、いつもみたいに扉を蹴飛ばして入場といこうか。既に主役は中にいるみたいだし。護衛もいたけど全員殺したので居ないと同じである。残念でした。恨むなら自分とこの世界を憎んでね。心の底から、丁寧に。
そして、扉を蹴飛ばす。うん、いつやってもいい気分。全員の視線が私に集まる。ゆっくりと、歩く。最高に楽しんで、糸で首を切り落として。血で塗れ。血で血を洗え。お前の身から出た錆だ。精算はお前達がやるべきでしょ?
そして、貴族様の前へ行く。終わる。私の、愛すべき過去の精算が。今、終わる。私の全てが、終わる。
……はずだった。目の前に立ちはだかる護衛と思わしき人物。
白くて長い髪に、中心だけ黄色の白い目、そして、切れ目が入っているふわっとした白いワンピースを着た、白い傘をさしたいかにもお姫様と言うような人が居た。
あれが、雇ったって言っていた「アシッド教」の人かな?…音が、人間じゃない。どちらかと言うと植物から聞こえる音によく似ている。…人、だよな?
「初めまして、指名手配の殺人鬼様。わたくしは”アシッド教”教祖代理補佐をさせていただいている者ですわ」
長い長い長い。え?なんて?教祖代理補佐?そもそも教祖に代理があるものなの…?
「さて、本日は”アシッド教”として裏からの陰謀を破るべくこの場に来ましたの」
…?陰謀?それ、私じゃなくね…?
「さて、そこの貴族様。何か言うことなどはございますか?無ければ”アシッド教”教祖代理様の命で貴方をお片付けしますわ」
……やっぱり、貴族様目的なのか。そもそも、これはアシッド教の管轄なの?…いや、別にどうでもいいか。
「黙秘…ですか。では、任務を遂行させていただきますわ」
瞬間、目の前で起きたことがただ信じられなかった。死んだ。呆気ない、なんてレベルでは無い速さで。…私じゃ、無理だ。この速度に勝てない。この人に、勝てない。
「さて、改めまして、初めまして…ですね。わたくしは”調停者”様の専属部下、”陰りの段位”の”女教皇”、スノードロップと申します。以後、お見知り置きを」
そう言って丁寧にお辞儀をするスノードロップ。…と言うか、スノードロップって花の名前だよな?と、いうよりも、”調停者”専属部下?そんなの居たのか。
「本日は、こちらに来てくださると思っていましたわ。なにせ、貴女様が憎んでいる貴族様の最後の一人でしたから」
…え、なんで、それを知っているの……?
「ふふっ、信じられない、とでも言いたげな表情ですわね。しかし、それも無理のないこと。わたくし達のような人間ではないと世界の考えなど理解出来ないでしょう。本来ならもっとしっかりとした所でお出迎えする予定だったのですが、こんな血で濡れた場所になってしまって申し訳ありません」
そして、また一礼。めちゃめちゃ綺麗なお辞儀を見せられた。教養の賜物だろうか?
「そして、貴女様には今から一緒に”調停者”様の元へ行っていただきたいのです」
……は?私を?と言うより、なんで私が貴族を恨んでいると知っている?しかも、最後の一人と言っていたことから私の過去まで知る人物だ。……意味が、分からない。
でも、なんでだろうか。”調停者”に1度会ってみたい。この世界の頂点、こんな化け物を部下にできるほどの強さ、それを見てみたくなった。ちょうど今私の目的は果たされた。恨んだ4人の貴族様は全員死んだ。だから、自由に動いていい。断罪するならしてみろ。それが、私の救いだから。
「…うん、分かった。案内はしてくれる?」
「えぇ、もちろんですわ。では、こちらに」
私が私である為の犯罪。
その犯罪を手助けした私の力。
そして、私に力を渡して、”楽譜”の2つ名も渡した”調停者”。
今まで、どんな気分で生きていたの?
力を渡した存在が人殺しになる感覚は、どんな気分?
教えて欲しい。
それは、私に無い思考だから。
コメント
3件
蒼音さん自身が家 族 の 葬 式を行えなかった故に憎い貴族様相手でも葬 式 中に襲う、なんてことはしなかったんだね…… 蒼音さんは全てが終わったら何をするんだろう?って思っていたけど、「捨てた人生」なんて言われたら切なすぎるよ……😢😢 アシッド教…スノードロップさん……スノードロップさんは蒼音さんのことについていろいろ知ってるみたいだけど、やっぱり"調停者"の専属部下だからなのかな……🤔💭