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東屋 朧
蒼乃(キャラボ中〜!)
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第四話 ②【ロッカー27】
「いや、まさか試すんですか」
「一回だけ」
「だめでしょう」
「外れたら警報鳴るタイプじゃないし」
「そういう問題では」
だがシオンは、ためらいなくテンキーに指を置いた。
0321。
ピッ。
電子音。
次の瞬間、カチャ、と小さな解錠音がした。
「……え」
誉と詩織の声が重なる。
開いた。
「嘘だろ」
シオンのほうが一番驚いていた。
三人で扉を見つめる。
「開いた……」
「開いたね」とシオン。
「開いたね、じゃないでしょう!」
「北松うるさい」
「だって!」
誉は半歩下がった。
さっきの電話。開けるな。見られてる。
その言葉が頭の中で反響する。
「……本当に開けるんですか」
「もう開いてる」
「論点が雑」
シオンは扉の縁に指をかけ、ゆっくり開いた。
中には、茶封筒が一つ。
それだけだった。
「……なんだ」
誉は思わず呟く。
もっとこう、物騒なものを想像していた。
もちろん、茶封筒だって十分不穏ではあるが。
シオンが取り出す。
厚みはそこそこある。A4を半分に折ったくらいのサイズ。
封はされていない。
「待って」と誉。
「何」
「素手で触って大丈夫なんですか」
「もう触った」
「だから早いんだって……!」
詩織が不安そうに封筒を見た。
「開けるの?」
「開けるために来たんでしょ」
「いや、そうですけど……」
誉が渋い顔をしていると、シオンは封を逆さにして中身をロッカーの上に滑らせた。
まず出てきたのは、数枚の写真だった。
「……写真?」
誉が一枚を手に取る。
ぶれた夜景。駅のホーム。
別の一枚。ライブハウスの裏口。
さらに一枚。
「……俺」
そこには、コンビニでコーヒーを買っている誉が写っていた。
スーツ姿。会社帰りらしい。
自分でも覚えのない一瞬だ。
「気持ち悪……」
次の写真には、駅前でシオンと話している誉。
おそらく第1話の夜の少し前か、そのさらに前。
そして別の一枚には、シオンが楽器店の前で誰かと話している姿。
「張られてたってことか」
シオンの声が少し低くなる。
「秋山さんが撮ったんですか」
誉が聞くと、詩織は首を振った。
「分かんない……でも秋山の部屋にも、こういうのあった」
さらに封筒から、USBメモリが一本転がり出た。
黒い、なんの変哲もないものだ。
「うわ、出た」とシオン。
「何がうわですか」
「いかにも秘密っぽい」
「軽いなあ」
最後に、小さく折られた紙が一枚。
シオンが開く。
そこには短く、こう書かれていた。
『本名で呼べ』
空気が止まる。
シオンの表情から、すっと色が消えた。
誉はその横顔を見て、初めて、これは冗談で触れていい類のものじゃないと理解した。
「……シオン」
詩織が息を詰める。
「これ、秋山の字」
誉は何も言えなかった。
“本名で呼べ”。
それはつまり、シオンの本名を知っている人間からの、明確な圧力だ。
「帰るぞ」
シオンが唐突に言った。
「え」
「ここで見るの終わり」
「でも」
「見られてるかもしれないんでしょ」
それは確かにそうだ。
誉は慌てて写真とUSBを封筒に戻した。
「警察には」
「言う」
「今?」
「いや、部屋戻って整理してから」
「整理してから、って」
「北松」
シオンは珍しくまっすぐ誉を見た。
その目に、いつものふざけた光はほとんどない。
「今ここで相良に連絡して、これ渡したら、たぶん俺らはもう何も見られない」
「それは……普通にいいことでは」
「よくない」
「なんでですか」
「秋山が何を渡そうとしてたのか、自分で確かめたい」
「あなたさあ……」
誉は頭を抱えたくなった。
だが同時に、少しだけ分かってしまう自分がいるのが嫌だった。
ここまで来て、全部警察任せにしてしまうのは、確かに悔しい。
「詩織はどう思う」
シオンが聞く。
詩織は迷った末、小さく言った。
「……警察に言うのは賛成。でも、その前に中身が何なのかは知りたい」
「ほら」
「ほら、じゃないんですよ」
誉が呻くと、シオンはもう歩き出していた。
封筒はシオンが持ち、誉と詩織がその後を追う。